馬産地コラム

あの馬は今Vol.35~桜花賞・チアズグレイス

  • 2008年06月19日
  • 今のチアズグレイス~浦河・三嶋牧場
    今のチアズグレイス~浦河・三嶋牧場
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 桜花賞 2000年4月9日 優勝馬チアズグレイス

 雑草のような根性を兼ね備えた力強い花だった。2歳時4戦2勝だったチアズグレイスは、年が明けてからの紅梅S、エルフィンSはいずれもサイコーキララの2着。それも、紅梅Sでは先をゆく同馬を捕まえきれず、エルフィンSでは先に抜け出したもののゴール前で強襲されるなど力の差を感じさせる内容で敗れ去っていた。しかも、本番と同距離、同競馬場で行われる前哨戦のチューリップ賞は1番人気を大きく裏切る10着敗退。道悪馬場とはいえ、見せ場すら作れない内容は多くの人を落胆させていた。
 
 そして迎えた本番桜花賞。彼女はこれまでの悔しさを一掃するかのような走りを見せて桜の女王に輝いた。4歳春のクラシックにおいて、前走2桁着順からの巻き返しは86年に日本ダービーを勝ったダイナガリバーがいる程度で、ほとんど例がない。また、当日のチアズグレイスの馬体重マイナス16キロでの勝利もクラシックの舞台では前代未聞のことだった。そして、それは同時に父サンデーサイレンスにとっては、産駒デビュー6世代目にして達成した、戦後4頭目の5大クラシック完全制覇の瞬間でもあった。
 
 チアズグレイスは1997年3月30日に門別町(現日高町)の白井牧場で生まれているが、オーナーサイドの意向により、生後10日ほどして母チアズフラワーとともに同じ門別町のナカノファームへと移動している。生産者を母に例えるなら、産みの親と育ての親がいる格好だ。 物語のシンデレラと異なるのは、いずれの親も本当の母チアズフラワーとともにチアズグレイスを一生懸命に育てたということだが、数々の逆境を跳ね返しての勝利には、もしかしたらそんな彼女の幼少期の過ごし方と何か関係があるのかもしれない。
 
 大きな馬体重減で桜花賞を勝った反動が心配されたオークスはシルクプリマドンナの2着。その後、夏を順調に過ごした同馬は、秋になってローズSから秋華賞と3歳牝馬の王道を歩むが、不完全燃焼の5、4着。しかも屈腱炎を発症したために秋華賞が最後のレースとなってしまった。
 
 一度は復帰を目指してトレセンに入厩したものの再度脚部不安を発症したチアズグレイスは、4歳初夏にJRA最優秀3歳牝馬のタイトルとともにナカノファームへと戻ってきた。その後は1年近くを休養に充てられて、チアズグレイスと同じ第1回函館競馬初日の新馬戦を快勝したチアズガディス(牝5歳、父フレンチデピュティ)の母となった。

 そして2005年の秋からは浦河の三嶋牧場へと移動して現2歳にはシンボリクリスエスの牝馬がいて、1歳にはクロフネの牝馬がいる。今年はキングカメハメハの牝馬を出産し、再びキングカメハメハの産駒を宿すなど順調な繁殖生活を送っている。
 綺麗に整備された三嶋牧場の大きめの放牧地には母仔が3組。ほかの2頭からはポツンと離れたところで草をかんでいた。「おっとりした馬ですね。たまに放牧地を走ることもあるけど、手がかかることもほとんどないし、適度な放任主義で仔育ても上手です。こちらに移動してきて4年連続で受胎していますが、これまで牝馬続きなので、来年こそはオトコ馬を生んで欲しいですね」とスタッフの期待も高まっている。

            日高案内所取材班