トーセンジョーダンを訪ねて~ブリーダーズ・スタリオン・ステーション
馬産地北海道の秋は早い。本州都市部では季節はずれの真夏日などと報道されているかと思えば、紅葉の季節は駆け足で通り過ぎ、初雪、初冠雪のニュースが新聞、テレビ、ネットを賑わせている。
そして、この季節、馬産地に点在している各スタリオンステーションでは来年の種付けに向けた準備がスタートしている。新種牡馬の導入、入れ替え、去りゆく馬。ここ、日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションでも2015年の最優秀2歳牡馬リオンディースがスタッドインを果たして来春からの種付けに備えている。
だから、種牡馬にとっての“鬼門”は3年目シーズン。次々とスタッドインを果たす新種牡馬たちの前に現役時代のイメージは薄れ、初年度産駒誕生のニュースもない。しかも産駒デビューを控えたフレッシュマンサイアーのように話題になることも少ない。しかし、ここで産駒数を減らしてしまうと後々のサイアーランキングにも影響を与えてしまう。3年目シーズンは、いわば勝負の年なのだ。
「産駒の評判はおかげさまで良いみたいです」と笑顔で話してくれたのは同スタリオンステーションでトーセンジョーダンを担当する佐々木さん。初年度の配合数が102頭で2年目シーズンの今年は121頭。人気馬がしのぎを削るブリーダーズ・スタリオン・ステーションで2番目の人気種牡馬となった。
トーセンジョーダンの父ジャングルポケットも担当する彼は、トレードマークともいうべき人懐っこい笑顔を見せながら、嬉しそうに話してくれた。
「フレーメンをする仕草なんかはお父さんそっくりです。もっとも、これはこの親子だけではなくトニービンの血を引く馬には多い傾向なんですけど」と頭をかいた。
放牧地でのトーセンジョーダンは人懐っこい。人の姿を見つける寄ってくる。あまり近づかれてもカメラに収まりきらないのでそっと離れようとしても離れてくれない。草を噛んでいる隙に離れると、怒ったように走って近づいてくる。そんな仕草が愛おしい。天皇賞(秋)(G1)をレコード勝ちしたほか、ジャパンカップ(G1)は2着と3着。天皇賞(春)(G1)も2着だからスピードのあるステイヤーと言うべきか、スタミナを兼備したスピード馬と表現すべきか。
そんな彼の現役時代は爪の不安に悩まされ続けた馬。人間が自分にとって敵ではないということを理解しているのかもしれないし、担当の佐々木さんが注ぐ愛情がそうさせるのかもしれない。
「ぼくたちの仕事は、基本的には待つ仕事です。トーセンジョーダンの子を見るのは、種付けにきてくださる繁殖牝馬に寄り添う子馬くらいなのですが、1度種付けをしてくれた生産者の方がもう1度足を運んでくださるケースが多いのが嬉しいです。ひいき目かもしれませんが、父親の雰囲気を持った子馬が多いような気がします」と言い「トーセンジョーダンを配合してくれた生産者の方や、トーセンジョーダンの子を購入してくれた馬主さんに喜んでもらえるような、そんな種牡馬になってほしいです」とエールを送っている。