サンツェッペリンを訪ねて~加藤ステーブル
2007年の京成杯(Jpn3)の勝ち馬サンツェッペリン(道見牧場生産)を訪ねた。現在は日高町の加藤ステーブルで余生を送っている。
父テンビー、母プラントオジジアンという血統のサンツェッペリンは、現役時代22戦2勝。2歳夏の福島デビューから一戦ごとに力をつけ、3歳1月の京成杯(Jpn3)で重賞初制覇を果たし、クラシックに名乗りを上げた。皐月賞トライアルで8着に敗れたことが影響し、皐月賞(Jpn1)では15番人気の低評価だったものの、積極的な競馬で2着に好走。レース史に残る大波乱を演出した。続く日本ダービー(Jpn1)では名牝ウオッカに敗れたが、掲示板にともる4着。前走の走りがフロックでないことを証明した。その後の成績はやや精彩を欠き、ホッカイドウ競馬移籍後3戦して引退となったが、あのヴィクトリー、フサイチホウオーとの激しい争いは、今も競馬ファンの脳裏に焼き付いているだろう。
「引退後も元気一杯に過ごしています。食欲旺盛で馬体重は500kgを超えていますね。現在は、主に牧場スタッフの騎乗技術向上のための乗用馬として起用しています。」と、紹介してくれたのは、同牧場・育成スタッフの内田健さん。最近のスケジュールは日中をパドックで過ごした後、ウォーキングマシーンで運動したり、馬場で乗馬訓練を積んだりしている。
10歳となったサンツェッペリンに相対する内田さんは、1歳秋から彼のことを知っている。幼いサンツェッペリンを入厩まで育成したのが内田さんだ。神奈川県出身でサッカーが得意な内田さんは、10代の頃に元日本代表の中村俊輔選手と一緒に練習していた一人。持ち前の運動神経を生かし、社会人となってからはやんちゃ盛りの1・2歳馬を丁寧に育成している。
「今となってはだいぶ落ち着いてきましたが、昔は気性の強すぎる部分があって、叱ることもありました。乗っている感触からはとても柔らかく、バネのある馬でした。デビュー後は期待以上の素晴らしい成績を残してくれて、京成杯(Jpn3)で口取りに入ったことは、忘れられない思い出です。皐月賞(Jpn1)の時は嬉しさと悔しさ、両方でしたね。馬の仕事をしていて良かったと思いました。」と、懐かしげに話す。手塩にかけて育てた馬が、頂点を決める舞台に立ったことは大きな誇り。若かりし自分にあった殻のようなものも、破ってくれた。
「競馬の世界は選ばれた良血馬だけが活躍するとは限りません。この馬に携わってから、先入観を持たずに育成に取り組むことが大事だと思いました。」と、サンツェッペリンから得た経験を、強い馬づくりにつなげている。
あっという間に夕暮れとなる冬。洗い場につながれたサンツェッペリンはオレンジ色に照らされて、内田さんの仕草に注視している。厳しい寒さでも体調を崩すことはないという。思えば、1月の重賞勝ち馬だ。内田さんと一緒に歩く姿は息ぴったりで、堂々としている。インタビュー中は終始真剣な顔つきだった内田さんの表情も、どこか和らいでいる。
「これからも元気に過ごして欲しいですね。乗用馬としての実力も増していくでしょう。牧場にとっては今も大切な存在です。丈夫なタイプですし、長生きさせたいですね。」