馬産地コラム

トーホウエンペラーを訪ねて~静内フジカワ牧場

  • 2013年08月30日
  • トーホウエンペラー
    トーホウエンペラー
  • 歩きは力強く、衰えはありません
    歩きは力強く、衰えはありません
  • 普段は大人しい気性です
    普段は大人しい気性です
  • 種付けでは気の強い牝馬相手でも動じません
    種付けでは気の強い牝馬相手でも動じません

 2001年、2002年のNARグランプリ年度代表馬、トーホウエンペラー(千葉飯田牧場生産)を訪ねた。種牡馬生活11年目を終え、北海道で静かな夏を過ごしている。

 「現在は早朝から夕方5時まで放牧しています。具合の悪いところはなく、食欲旺盛で元気いっぱい。今年で17歳になりましたが、心身の衰えは感じませんね。」と、近況を語る主は、繋養先の静内フジカワ牧場代表の藤川靖仁さん。漆黒の馬体は相変わらずで、体のアウトラインがくっきり見える。どことなく雰囲気は今年亡くなった父ブライアンズタイムに似てきた。

 放牧地と馬房は同牧場の功労馬デュークグランプリと隣り合わせ。ダート重賞馬同士、仲良く過ごしているという。「普段は大人しくて、暴れたりはしないです。気性は素直で、扱いやすいですね。自分のするべきことをよく理解していて、種付けの時は一気にスイッチが入ります。どんな繁殖牝馬が来ても動じないですし、上手いです。」と、藤川さんは特徴を紹介する。“東北の皇帝”と称されている馬だけあって、何があってもドンと構えている様子だ。

 岩手競馬所属馬として現役時代は33戦20勝。デビューは3歳の大みそかと遅かったが、破竹の9連勝で岩手上級クラスまで上り詰め、一年足らずで岩手の重賞馬となった。地元ファンの大きな期待を背負い、5歳時からは全国の舞台に挑戦。各地の強豪馬と熾烈な争いを繰り広げ、11月には朱鷺大賞典(G3)で念願の交流重賞Vを果たした。暮れには大井へ遠征し、東京大賞典(G1)に出走。ウイングアロー、トーシンブリザード、ノボトゥルーらを破り、ゴール前で鞍上の菅原勲騎手が高々と手を上げた。翌年は地元の大一番・マイルChS南部杯(G1)を快勝。国内外の強豪馬が揃うジャパンCダート(G1)では6着に敗れたものの、海外馬には見事先着を果たし、直線半ばまで先頭集団で争った。

 2003年に種牡馬入りし、初年度は89頭の繁殖牝馬を集めた。その後の交配頭数はやや少ない数字で推移しているが、初年度から南関東の重賞馬クレイアートビュンを出し、トーホウオルビスはJRA・オープン馬にのし上がった。

 「産駒は性別問わず走りますし、父同様にダートが得意ですね。骨格がしっかりしていて、大きく育つ馬が多いように思います。」と、藤川さんは産駒像を語る。これまで出走した産駒のうち、約7割が勝ち馬となっており、低価格な種付料でも決して侮れない。

 今年は産駒センゲンコスモが6歳で、レイズミーアップが9歳で地方の重賞を制した。自身が奥手だっただけに、産駒もその傾向は少なからずある。4歳、5歳と年齢を重ねてじわじわと成長する産駒が、今後も堅実に現れていくのではないか。

 「次第に力をつけていく産駒が目立っていますね。エンペラーの食欲の良さが遺伝して、使い減り・輸送減りしないことも起因しているのだと思います。種付頭数は減ってきましたが、1頭でも多く産駒を競馬場に送り出していきたいです。あとは、健康で長生きして欲しいと思います。」と、藤川さんは願いを込めている。