馬産地コラム

ブラックタキシードを訪ねて~前川義則牧場

  • 2012年06月21日
  • ブラックタキシード
    ブラックタキシード
  • 牧場での呼び名は「ブラック」
    牧場での呼び名は「ブラック」
  • すでに36頭の交配を済ませている
    すでに36頭の交配を済ませている
  • 数少ない青毛の種牡馬
    数少ない青毛の種牡馬

 1999年のセントライト記念(G2)を制したブラックタキシード(ノーザンファーム生産)を訪ねた。長らくブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬生活を送っていたが、今春から日高町の前川義則さんの牧場に移動し、再スタートを切っている。

 初夏のある日、前川義則さんの案内でブラックタキシード専用の放牧地へ行く。種付け所のそばにあり、そばでは犬たちが陽気に遊んでいた。「移ってきてからの様子はどうですか?」と、尋ねると、にこやかな表情で、「こちらの環境にも慣れ、元気いっぱいに過ごしています。食欲も良すぎるぐらいだし、年齢以上に若いです。種付けもよく理解していて、早くて上手。ただ、この血統らしく気性の激しさはありますね。油断しているとガブッと噛むことがあるので、扱いには気を付けています。」と、近況を伝えてくれた。

今年はすでに過去3年を上回る種付け頭数に恵まれ、周囲に“予想以上”と言わしめている。それもそのはず、昨今、産駒アスカリーブルが大ブレイク。兵庫デビューからあれよあれよと頭角を現し、関東オークス(Jpn2)、東京プリンセス賞(S1)など重賞4勝。世代を代表するダート牝馬にのし上がっている。

 「春先からアスカリーブルの厩舎関係者から、かなり能力が高いと聞いていました。南関東クラシックに勝ったことで、反響がありましたね。ブラックタキシードにとっては何よりのPRになりました。」と、前川さんは喜ぶ。今年は1日平均2頭の種付けで、繁殖牝馬が乗った馬運車を見るとすぐに察知して興奮し出すという。「気性はキツいですが、随所で賢さも感じます。」と、前川さん。増加する仕事に備えるように、放牧地ではよく動き、サンデーサイレンス直仔らしい青い毛を輝かせている。

 これまでデビューした産駒8世代からは250頭以上の勝ち馬を出しており、そのボリュームは若手種牡馬を凌駕する。ブラックタキシード自身は芝重賞馬だが、母方に宿るアメリカの名種牡馬ストームキャットの血をキーとして、産駒は力のいるダートで活躍している。アスカリーブル以外にも佐賀記念(Jpn3)優勝馬チャンストウライ、東京盃(Jpn2)2着馬ヤサカファインが実績を上げている。初年度から継続的に手頃な種付け料を打ち出し、10年以上続く種牡馬生活も納得の“安くて走る”ブランドで売っている。

 多くの息子、娘とは対照的に現役時代のブラックタキシードは芝で大舞台の扉を開いた。本領を発揮した3歳春、ベンジャミンS、ダービートライアル・プリンシパルSを連勝し、日本ダービー(G1)では5着に力走。秋の菊花賞トライアル・セントライト記念(G2)で待望の初重賞制覇を果たした。その後は脚部不安、故障のために満足な競走生活を送れなかったが、トライアルホースで終わる器とは思えなかった。

 「まだ中央の重賞馬がいないので、いずれ達成できるように、コンスタントに繁殖牝馬を集めていきたいです。芝でも、もっと成果を出していけたら最高ですね。」と、前川さんは意気込む。ふと思い浮かぶのは、曇り空の府中。アドマイヤベガ、ナリタトップロード、テイエムオペラオーの“3強”を追いかけた脚は、まぎれもなくダービー史の一場面にある。再び最高峰への挑戦を夢見て_タキシードが似合う舞台に、産駒の姿を見つけたい。