ミスキャストを訪ねて~アロースタッド
天皇賞(春)(G1)で大波乱を演出したビートブラックの父ミスキャストを、新ひだか町のアロースタッドに訪ねた。
最大9連休とも言われる2012年のゴールデンウィーク。それでも、馬産地はいつもの年と同じように出産、種付けの最盛期を迎えている。ミスキャストがいるアロースタッドは、桜並木で有名な新ひだか町の二十間道路沿いにある大型スタリオン。最高齢種牡馬のブライアンズタイムやタイキシャトル、スズカマンボ、アジュディミツオー、バランスオブゲームなどの個性派スターが顔をそろえ、今シーズンからビービーガルダンも仲間入りを果たしているが、その中でも異彩を放っているのが、超のつく良血馬ミスキャストだ。
一夜明けたらヒロインになっていた、というのは童話シンデレラのストーリーだが、ミスキャストも一夜明けたらヒーローになっていた。
同スタッドの本間一幸主任は「スタリオンで働く人間にとっては、子どもの活躍が何よりの励みになるんです。あの日は東京競馬場で(同じアロースタッド繋養の)サウスヴィグラスの仔ナムラタイタンもオープン特別を勝ってくれたので、よい日になりました」と嬉しそうに話してくれた。
父サンデーサイレンス。母ノースフライト。その父トニービン。改めて説明するまでもない、垂涎の良血馬だ。同期にはアグネスタキオンがいて、ジャングルポケットがいて、マンハッタンカフェがいる。クロフネやタイムパラドックスもいる豪華な世代。種牡馬の黄金世代という人もいる。
新馬戦に勝ち、1戦1勝で舞台に立った弥生賞(G2)はアグネスタキオンの3着。プリンシパルSでビッグゴールド以下を下したもののレース後に左トウ骨の遠位端骨折が判明し、ダービー(G1)は出走を断念せざるを得なくなった。09年からアロースタッドで種牡馬入りしたものの、種付頭数に恵まれずに1度は種牡馬生活を休んだこともある。それが、孝行息子のビートブラックの活躍によって復活。いまや、押しも押されもせぬG1サイアーとなった。
「普段はおとなしい馬なんですが、種付けのときは、とても張り切る馬。それから何をするか分からないところがあるんです」と本間主任。例えば、担当者と並んで歩いていたかと思うと、突然、違う方向に行こうとしたりする、いわゆる“油断のならない馬”らしい。なんとなく、今回のレースと重ねることができるから、おもしろい。
「種付シーズン以外は自分の牧場に戻るのですが、そこではずっとおとなしいと聞いています。種付けがないと理解しているようですね。そういう意味では賢い馬なのかもしれません」。
今シーズンは孝行息子の頑張りで忙しいシーズンになりそうだ。