ヤエノムテキを訪ねて~日高スタリオンステーション
1990年の最優秀父内国産馬、ヤエノムテキ(宮村牧場生産)を訪ねた。現在は浦河町の日高スタリオンステーションで功労馬として余生を過ごしている。
「体調は安定して良い状態です。ヤマニンスキーの血を受け継いで気性の激しい馬でしたが、今ではだいぶ大人しくなりました。今年で27歳になりますし、おじいちゃんらしくなりましたね。」と、近況を語るのは同スタリオンの三好正義場長。太る体質ではないそうだが、飼い葉は残さず食べきっており、若い頃の馬っぷりは面影十分。冬の寒さも脱し、馬服ともさよならの春を迎えている。
現役時代は皐月賞(G1)、天皇賞(秋)(G1)など重賞を5勝。負けたレースの中にも日本ダービー(G1)では先日亡くなったサクラチヨノオーから0.6秒差の4着、古馬になって安田記念(G1)ではオグリキャップの0.3秒差の2着と、とりわけ東京コースで高いパフォーマンスを示した。競走馬としては5億円以上を稼ぎ出し、父ヤマニンスキーの代表産駒としても名を広める。種牡馬としては1991年から10年以上交配に努めたが、産駒ユウキツバサオー、ヤエノビューティが準オープンクラスまで出世したものの、重賞馬誕生は果たせず。父として悔しい思いは募るが、今では全国のファンが「ヤエノムテキ会」を結成し、幸せな馬生をバックアップしている。共に走ったオグリキャップが亡くなった時には、一緒に過ごしたスーパークリークとともに「ヤエノムテキ」の名で献花があったことを思い出す。
青草がびっしり生える季節になれば、おじいちゃんらしからぬ派手な馬体が一層映えることだろう。「ここは海に近い場所なので夏は虫が少ないですし、海風も吹くので、暑さに苦労することはないですね。高齢馬にとって過ごしやすい環境だと思います。これからも元気で、長生きさせたいです。」と、三好場長は優しいまなざし。放牧地は繋養中の種牡馬に囲まれていて、今の時期はプリサイスエンド、ゴールドヘイローらが仕事に向かう様子をじっと眺めている。同世代の多くは天国へと旅立ってしまったが、命を作る現場から生きる力を感じ取っているのかもしれない。老いに対してもその名の通り、無敵な生き様であって欲しい。