エンパイアメーカーを訪ねて~JBBA静内種馬場
2003年のベルモントS(G1)の勝ち馬エンパイアメーカー(アメリカ産)を訪ねた。アメリカから日本に渡って2年目の春。昨年は204頭と交配し、今年も多くの生産者から支持を集めている。2月の種牡馬展示会ではトリを務め、早くも種馬場のエースだ。
エンパイアメーカーが過ごすのは新ひだか町静内のJBBA静内種馬場。管理する遊佐繁基獣医師は、「こちらの環境にも慣れ、体調は非常に良いです。タフな馬で、種付けも上手。受胎率も優秀で、種牡馬として充実した毎日を送っています。」と、近況を語る。
現在の馬体重は620kg。恵まれた大きな馬体と、品のある顔つきに惚れ惚れする。1日に約30分、健康維持のためスタッフが乗り運動をしている。5月半ばをピークに、これから種付けが増えていくところで、今年もかなりの申し込みが来ているという。昨年同様に良い数字をマークしていきたい、と種馬場の皆さんは万全の態勢で構える。
現役時代は8戦4勝、アメリカG1を3勝している。3歳時、1番人気を背負って出走したケンタッキーダービー(G1)では2着に敗れたが、3冠最後のベルモントS(G1)でダービー馬・ファニーサイドにリベンジし、豪快な決め脚で勝利を掴んだ。勇猛果敢に駆け抜けるその姿を、日本の競馬場・ウインズの映像で知ったファンも少なくないだろう。
血統は父Unbridled、母Toussaud、母の父El Gran Senorという血統。昨年の交配ラインナップを見ると、サンデーサイレンス系牝馬のシェアが高く、血統的なニーズという点でも日本にぴったりな存在だ。
アメリカではすでに5世代の産駒がデビューし、G1馬も誕生させている。その中の一頭、昨年のブリーダーズカップ・レディーズクラシック(G1)を制したロイヤルデルタは、その後のセールで850万ドルという驚愕の高値で取引された。競馬場、セールを発信源に産駒の話題が世界をめぐっている。
海外でも産駒を見てきた遊佐獣医師は、「伸びのある、雄大な馬格をした馬が目立ちますね。直線の長い、広いコースで威力を発揮するタイプですね。」と、産駒像を語る。現役時代の競走成績からはダート馬のイメージがつくが、これまでの産駒は芝、オールウェザーでも結果を出しており、芝のクラシックを意識できる種牡馬としても十分推せる。まして、今年は持ち込み産駒フェデラリストが芝の中山金杯(G3)、中山記念(G2)を制しており、「日本の芝も大丈夫」という読みは深まっている。
「生産地に貢献できる種牡馬になれることを期待しています。新たな“お助けボーイ”になって欲しいですね。」と、遊佐獣医師はかつて生産地を支えたトウショウボーイを引き合いに出した。アメリカでのエンパイアメーカーの初年度種付け料は10万ドルの値がついたが、現在はその半分以下の設定。当歳・1歳馬市場が冷え込む中、“お助けボーイ”の話も現実味を帯びる。果たして、日本でどんな勝利や喜びをもたらすのか。救世主への熱い視線は長らく続きそうだ。