ヤマニンセラフィムを訪ねて~レックススタッド
2002年の京成杯(G3)の勝ち馬ヤマニンセラフィム(錦岡牧場生産)を訪ねた。ナムラクレセントが昨年、産駒として初のJRA重賞タイトルをもたらし、種牡馬として再び評価の目が向けられている。
「昨年より寒く感じるね。」という、レックススタッド・泉山場長の案内で、放牧地を目指す。厩舎から一番近い場所にいるという。そこにはブルーの馬服を着て、牧草をもしゃもしゃと食べるヤマニンセラフィムがいた。鼻から白い息を吐きながら、凍てつく寒さも意に介さずといった表情だ。
場長に近況を聞くと、健康状態はいたって良好だという。2月までは朝8時頃から午後1時30分頃まで放牧している。「やっぱりサンデーサイレンスの仔ですから、気の強いものはありますよ。」と、泉山場長。傍らでその血の特性を感じ取りながら、約10年の付き合いになる。「種付の時なんかは目や耳の動きを見ながら、呼吸を合わせています。やんちゃな性格を考慮しながら、ですね。」と、職人の顔をちらつかせた。
サンデーサイレンス直仔の種牡馬の中でも、この馬は超良血の部類に入るだろう。母は1994年、JRA賞最優秀3歳牝馬に輝いたヤマニンパラダイス。祖母Altheaはケンタッキーダービーで1番人気に推されたほどの牝馬で、高額取引で日本にやって来た。Altheaの半弟には日本で種牡馬入りしたトワイニング、半妹バラダはノーリーズンの祖母で、半姉Foreign Courierは種牡馬Green Desertの母。ブラックタイプの濃さは群を抜く。
現役時代は2歳秋のデビュー。後に活躍するゴールドアリュール、レニングラードを下して快勝すると、出世レース・エリカ賞も勝ち、クラシック候補として注目を浴びる。3歳初戦の京成杯(G3)ではローマンエンパイアとの一騎打ちの末、同着ゴールを果たし、母仔G1制覇に向けて順調な歩みを見せた。長い直線で発揮した素晴らしい勝負根性に、胸打たれたファンも多かったことだろう。しかし、続く弥生賞(G2)で6着に敗れた後、骨折が判明。長期休養し、4歳秋に復帰するも、屈腱炎を発症してしまい、無念の引退となった。6戦3勝という戦歴の短さが何とも惜しまれる。
2004年に種牡馬入りし、初年度産駒のナムラクレセントが昨年の阪神大賞典(G2)を優勝。すでに3億円以上を稼ぎ出し、「父ヤマニンセラフィム」の名を広めている。他にも、産駒ヤマニンリュバン(2010年引退)がJRAで4勝をマークしてオープン入りを実現。芝のナムラクレセントに対し、ヤマニンリュバンはダートで結果を出しており、産駒の得意分野には幅が持てるタイプかもしれない。
「ナムラクレセントのレースはいつも見ていますよ。積極果敢なレースぶりを生かして、大きなところを狙える馬だと期待しています。」と、泉山場長は出世頭の躍進を楽しみにしている。謎に包まれた父の能力を明かしてくれる唯一の存在は、その血を受け継ぐ息子と娘。決して多くはない産駒数ながら、立派なオープン馬を出した実績で、その謎の答えはじっくりと明かされようとしている。