キングヘイローを訪ねて~優駿スタリオンステーション
2000年の高松宮記念(G1)の勝ち馬キングヘイロー(協和牧場生産)を訪ねた。引退後は優駿スタリオンステーションに種牡馬入りし、早10年が経とうとしている。
近況を伝えてくれたのはスタッドインから管理している同スタリオンの山崎努主任。「今年も順調に種付けシーズンを終えることができました。多い時期は1日3、4頭の交配をしましたが、非常にタフな馬で、種付けも上手です。食欲も十分で年齢以上に若々しく、馬体は充実しています。以前よりどっしりしてきて、種牡馬として風格が出てきました。」と、様子を語る。現場での呼び名は“キング”もしくは“キン”。人に対して悪さをすることはないが、馬相手には気の強いところを見せるらしい。放牧地に会いに行くと筋肉を躍動させ、迫力満点の走りを見せてくれた。
キングヘイローは現役時代27戦6勝。今も欧州最強馬の呼び声高い父ダンシングブレーヴに、米国の名牝グッバイヘイローを母に持つ超良血馬は、天才騎手の息子として注目を浴びていた若手騎手・福永祐一と牡馬クラシックを歩む。しかし、結果はほろ苦いものだった。皐月賞(G1)では0.1秒差及ばず、ダービー(G1)では折り合いを欠き、武豊とスペシャルウィーク、横山典弘とセイウンスカイの華麗な勝利に影をひそめた。
思い出したくもない敗戦は巻き返しへの原動力を生んだ。古馬となったキングヘイローは福永祐一とのコンビこそ一旦解消されたが、重賞2つを上乗せし、その後もG1で好走を続けた。福永祐一も新たなパートナーと共にクラシックVを果たし、G1ジョッキーの仲間入りを果たした。
大きなタイトルが欲しい――キングヘイローのG1挑戦は芝の王道、マイル、短距離、ダートと矛先を変えながら2ケタの回数に及んだが、あと一歩が詰め切れない。歯がゆい競馬にファンをやきもきさせながら迎えた5歳春。電撃の6ハロン戦高松宮記念(G1)でその鬱憤を晴らす時は来た。中団待機から外目を鋭く伸びたキングヘイローは、アグネスワールド、ブラックホークといった名だたる快速馬を交わし去り、悲願達成のゴールへと飛び込んだ。奇しくも僅差2着には福永祐一とディヴァインライトが迫り、勝負の分かれ目に見える運命に、ファンはただならぬ余韻に包まれた。
父となり、これまでに産駒は8世代がデビューし、すでにG1勝ちが4つ。今季は91頭と昨年並みの交配頭数をマークした。サンデーサイレンス系種牡馬がリーディング上位をひしめく中、その血を持たない種牡馬として気を吐いている。「地方競馬では高い勝ち上がり率を記録していますし、堅実な成績を残していると思います。仕上がりも早いし、気持ちで走る父の特徴を受けて、どんな条件でも結果が出ていますね。」
JRAではローレルゲレイロ、カワカミプリンセスに代表されるように芝で大成する産駒が目立つ一方、無敗の兵庫ダービー馬オオエライジンやサマーチャンピオン(Jpn3)の覇者キングスゾーンなど、力のいる地方ダートでも攻勢を感じる。
「ヨーロッパの血が入っているし、いつ大物を出しても不思議ではない種牡馬です。カワカミプリンセスのようなクラシック級の登場を願っています。特に、キングヘイローが無冠に終わってしまった牡馬クラシックは欲しいタイトルですね。また、ローレルゲレイロのように、産駒が種牡馬になって帰ってきてくれたら最高です。」と、山崎主任は胸を膨らませる。
昨年3月のJRAプレミアムレースではアンケートの最多票を得て「キングヘイローメモリアル」の名がついたほど、現在も人気は高い。今は亡きセイウンスカイ、エルコンドルパサー、共に種牡馬生活を歩むグラスワンダー、スペシャルウィークらと同じ“最強世代”と謳われた一頭。あの頃の大歓声を知る血が、その光景を再生させていく。