アドマイヤムーンを訪ねて~ダーレー・ジャパンスタリオンコンプレックス
2007年の年度代表馬アドマイヤムーン(ノーザンファーム生産)を訪ねた。今年8月、初年度産駒ファインチョイスが幸先良く重賞Vを果たし、一気のブレイクを予感させる種牡馬として、馬産地では大きな関心が向けられている。
現在、アドマイヤムーンが暮らすのは日高町のダーレー・ジャパンスタリオンコンプレックス。2008年に種牡馬入りし、毎年3桁の交配頭数をマークしている。ノミネーションマネージャーの加治屋正太郎さんに近況を伺うと、「4シーズン目を終え、一段と種牡馬らしくなってきましたね。食欲も旺盛で、すこぶる健康に過ごしています。女性を中心に見学にいらっしゃるファンの方も多いですよ。」と、語る。馬体重は560kg前後あり、種付けシーズンに入る前の1月からは引き運動をしてコンディションを整えている。牧場での呼び名は“ムーン”。今年は125頭と交配し、数字が落ち込みやすい4年目ながらも高い数字をマークした。
「気性的にはオンとオフがハッキリしていて、利口な馬です。種付けも上手で紳士的です。」と、加治屋さん。普段はのんびりとしているそうだが、種付けの際はさっと仕事をすませ、スタッフの手を煩わせない。放牧地へ会いに行くと幅のある好馬体で、見る者をうっとりさせる。絵画のような美しい景観もまた、彼の上品さを引き立たせている。
現役時代は国内外で17戦10勝。クラシック制覇こそ叶わなかったものの、実力が試される大舞台で強かった。極上のメンバーが揃うジャパンカップ(G1)、宝塚記念(G1)、ドバイデューティフリー(G1)を制し、ウオッカ、メイショウサムソン、ダイワメジャーといった時代を彩った名馬を破ってみせた。生涯、掲示板を外したのは僅か2回で、伸びを欠く姿を思い出せないほど、彼の走りは頼もしかった。また、ケガもなく2歳夏から4歳秋までフルに一線級で上位争いし、その馬主孝行さも強調したい戦歴だ。
産駒はこれまで函館2歳S(G3)を制したファインチョイスを筆頭に、次々に勝ち名乗りをあげており、早くも成功への道に光が射している。加治屋さんは、「ファインチョイスが世代最初の重賞を勝ってくれましたし、勝ち上がり頭数・率ともに優秀で、最高のスタートを切れましたね。アドマイヤムーンの長所である柔軟性や収縮性が産駒のキレ味に結びついていると思います。自身も2歳戦から活躍しましたが、古馬となってG1を勝った馬ですし、産駒も十分に成長力が見込めそうです。」と、トーンは高まる。勝ち上がった馬のレースぶりを見てみると、一旦控えて抜け出すというレースセンスあふれる内容が目につき、気持ちのスイッチが効く父の特徴も生かされている印象だ。
迎えてきた繁殖牝馬の中にはG1馬や重賞馬の母などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。これほどのラインナップを集めたのだから、“産駒は走って当たり前”の辛い立場かもしれないが、大役を任されるのは人気種牡馬の証。加治屋さんは、「これからデビューする馬にも楽しみな馬が沢山いますし、このペースで順調に成績を伸ばして欲しいです。初年度産駒の活躍を受けて、今後のセールでの売れ行きにもつながって欲しいですね。」と、期待を込める。父が果たせなかったクラシック制覇や、親仔2代による海外ビッグレースチャレンジなど、ファンの希望も膨らんでいるに違いない。ファン、関係者の熱い思いを乗せ、2011年、種牡馬アドマイヤムーンの第一歩をじっくり見届けたい。