ナリタタイシンを訪ねて~ベーシカル・コーチング・スクール
1993年の皐月賞(G1)の勝ち馬ナリタタイシン(川上悦夫牧場生産)を訪ねた。現在は日高町のベーシカル・コーチング・スクールで功労馬として余生を送っている。
同牧場厩舎長の佐々木道博さんに近況を伺うと、「変りなく健康に過ごしています。衰えも感じず、放牧地を元気一杯に走っていますよ。」と、明るい表情を見せる。2001年の種付け終了後、こちらの牧場に移ってきた。牧場では“タイシン”という呼び名で通っている。馬体重は550kg。毛ヅヤも良く、歩様も力強い。写真撮影をした後放牧地へと放たれると、猛然と遠くまで駆け抜けていった。余力十分の21歳だ。現在のスケジュールは午前中を馬房で過ごし、午後から専用の広い放牧地で数時間を過ごす。夏になると夜間放牧をしているという。
現役時代は15戦4勝。1993年牡馬クラシックではウイニングチケット、ビワハヤヒデと共に3強を形成し、熱い戦いを繰り広げた。古馬になってからは目黒記念(G2)で貫禄を示し、天皇賞(春)(G1)ではライバル・ビワハヤヒデと好勝負を演じるも2着に惜敗。その後は脚部不安を発症し、種牡馬入りすることとなった。6シーズン種付けし、目立った産駒は残せなかったが、最も活躍したサーストンガールが繁殖入りし、その血を孫世代に受け継がせている。
時は流れたが、皐月賞(G1)で見せた大外一気を忘れられないファンは多いようだ。今も遠方から30代、40代を中心に会いに来る方が少なくないという。「記念写真の時はしっかりポーズをとっていますよ。間近で会えて感激される方も多いです。」と、佐々木さん。女性ファンも半数近くを占めるというから、なかなかのモテっぷりだ。
この牧場では育成馬を手がけており、ナリタタイシンは2歳馬と同じ屋根の下で暮らし、2歳馬を両隣にして手入れの場所に入ることもある。なかなか面白い光景だが、当のナリタタイシンは、はるか年下の育成馬と並んでもマイペースに眺めているという。育ち盛りの若駒と並んでも全く動じないたたずまいは、育成馬にとって良い刺激を与えているかもしれない。
ナリタタイシンはこの牧場が開業と同じく入厩してきた経緯もあり、今ではすっかり家族のような存在だ。佐々木さんは、「今後ものびのびと生活して欲しいし、長生きさせてあげたいです。私たちは毎日タイシンと一緒にいますが、遠方の方はなかなか会いに来られないですからね。一人でも多くの方がタイシンに会って喜んでもらえるように、しっかり世話をしていきたいです。」と、真摯に話す。牧場の皆さん、全国のファンの愛情が健康維持につながっているのだろう。芝生を蹴り散らし、迫力満点に駆ける姿に、またあの時の豪脚を思い出した。