トーホウエンペラーを訪ねて~アロースタッド
不思議な底力を持っている馬だと思う。
「今年は24頭の牝馬に配合しました。上をみればキリがないけど、まずまずでしたね」と事務局がほっと胸をなでおろしている。かつて、新種牡馬としてNAR勝馬数1位を記録したことを思えば、やや寂しい頭数かもしれない。しかし、2008年にはわずか7頭まで落ち込んだことを考えれば、奇跡のV字復活と言えるものかもしれない。
思えば、トーホウエンペラーが歩んできた道のりは、そんなことの連続だった。
競走馬としてのデビューは、もうすぐ除夜の鐘が聞こえてきそうな3歳の12月31日。文字どおりにどん底からのスタートだった。
ブライアンズタイムの6世代目産駒。ナリタブライアンの快進撃によりブライアンズタイムの評価が最高潮に達した1995年の種付世代だ。母のレインボーブルーは弥生賞(G2)に勝ち、菊花賞(G1)2着レインボーアンバーの半妹。生まれたときから期待の大きな良血牡馬だった。デビューは遅れたものの、そんな期待に応えるように初出走からちょうど1年後の大晦日には岩手競馬ナンバーワン決定戦「桐花賞」に優勝する。その勢いは年が明けてもとどまるところを知らずに岩手競馬という枠を飛び越えて全国の交流競走を行脚。5歳の暮れには東京大賞典(G1)に優勝、さらに6歳時にはJRAでの善戦が認められて2年連続NAR年度代表馬となっている。
そして新ひだか町のアロースタッドで9年目の種牡馬シーズンを迎えようとしている。初年度産駒は出走した49頭中40頭が、2年目産駒も15頭中14頭が、3年目産駒も7頭中6頭が勝ちあがるなど、出走馬に対する勝ちあがり率は抜群だ。また、JRAにおいてもトーホウオルビス、トーホウアタックの両頭が準オープン特別を快勝し、重賞戦線に挑んでいる。
「ブライアンズタイムと似た雰囲気を持っている素晴らしい馬です。JRAの重賞勝馬こそまだいませんが、この産駒成績なら胸を張れますよね」とスタリオンスタッフがいう。とくに近年は、この馬に注目する生産者やオーナーが増えてきているらしい。
「とにかく、よく食べる馬です。だから、元気なんでしょうね。産駒成績も好調なので、来年はもっと忙しいシーズンになって欲しいです」と期待されている。これまで、幾度もどん底を味わっているが、そのたびに不屈の闘志で這い上がってきた。来春は26歳になる父親のためにも一花咲かせて欲しい1頭だ。