アグネスフライトを訪ねて~日高スタリオンステーション
太平洋を見下ろす小高い丘のうえにある日高スタリオンステーション。昭和42年に創立された民間では最古の歴史を誇るスタリオンだ。ここに第67回日本ダービー馬、アグネスフライトがいる。一族特有の栗毛の馬体が冬の陽射しを浴びてまぶしく光っている。
「馬は、とても元気ですよ。種牡馬入りした当初はいろいろなアクシデントに悩まされたけど、今はすっかり元気になりました」と日高スタリオンステーションの三好正義場長が取材者に向けた優しい視線を、机に落としながら話してくれた。肩越しには今年の種付頭数を書き記す事務所のホワイトボードが見える。そこに書かれた「2」という数字が寂しい。
サンデーサイレンス産駒のダービー馬。1歳違いの全弟には2008年総合チャンピオンサイアーのアグネスタキオンがいる超のつく良血馬だ。「血統を考えると、もう少し活躍馬が出ても不思議ないけど…」と言葉を濁す気持ちはよく分かる。
消長の激しい種牡馬の世界。優秀な繁殖牝馬の争奪戦は熾烈を極めている。スタッドインを果たした2004年、そして2005年とシーズン途中でアクシデントに見舞われたアグネスフライトだが、3年目シーズンは92頭への種付けを無事に済ませ、そうした中から生まれたインザエアは佐賀競馬の重賞競走「ロータスクラウン賞」を勝っている。また、JRAにおいてもアグネスミヌエットがあがり3ハロン33秒台の末脚で特別レースを快勝した。少しずつではあるが、一族らしさが産駒にも伝わり始めている。
「サンデーサイレンスの仔だから、ちょっとうるさいところもありましたけど、年齢を重ねてだいぶ落ち着きも出てきました。ただ、まだ寂しがり屋の面が残っていて、放牧地でも厩舎でも、周りに馬がいた方が安心するようです。周りに馬がいなくなると心細いのか、仲間を探して走りまわったりします」と意外なエピソードを披露してくれた。
そんなアグネスフライトだが、チャンピオンサイアーの全兄であり、日本ダービー馬という看板は色あせるものではない。早世した弟の分まで頑張って欲しい。