馬産地コラム

ヴィクトリーを訪ねて~社台スタリオンステーション

  • 2010年11月29日
  • ヴィクトリー~1
    ヴィクトリー~1
  • ヴィクトリー~2
    ヴィクトリー~2
  • ヴィクトリー~3
    ヴィクトリー~3

 「天才とは99%の努力と1%のひらめき」と言ったのは発明王トーマスエジソンらしいが、真の天才とは、気まぐれなものだと思う。努力なしに成功はありえないが、凡人の数分の1の努力で、ある程度のレベルまで引き上げられるのが天才だ。そして、真の天才は栄光とは縁遠いところにある。

 父ブライアンズタイム、母グレースアドマイヤ。おじにフサイチコンコルド、アンライバルドがいる血統。ヴィクトリーは、生まれたときからエリートだった。

 芝2000mの新馬戦を逃げて5馬身差圧勝。まるでスピードの違いを見せつけるかのように後続を引き離して逃げ、そして直線では2着以下を引き離した。まるで見えない敵と戦っているかのようなレース内容だった。

 そしてじっくりと間隔を空けて挑んだラジオNIKKEI杯2歳S(G3)では2番手から直線で先頭に立つと、新馬~重賞を連勝していたフサイチホウオーの追い込みを最後まで苦しめた。札幌2歳S(G3)の覇者ナムラマースは、2頭の争いを1馬身以上後方から見るだけの存在になっていた。年が明け、若葉Sは先行力に磨きをかけてサンライズマックスの追い込みを退けて優勝。クラシックの王道とはいえないが、いたずらに距離をいじることないローテーションは、繊細なヴィクトリーの気質を知る関係者によって考え出されたものだったのかもしれない。

 そんな想いがクラシック第1弾皐月賞(Jpn1)で実を結ぶことになる。大外枠からゆっくりとハナにたったヴィクトリーは、そのまま平均ペースに持ち込むと、サンツェッペリンを振りほどき、フサイチホウオーの追い込みを退けてG1ウイナーとなった。キャリア4戦の皐月賞優勝はトウショウボーイやミホシンザン、アグネスタキオンやディープインパクトと同じ。ところが、ヴィクトリーの輝きはこの勝利を最後を一気に失せていく。

 ダービー(Jpn1)はウオッカの前に見せ場すら作れず、折り合いを欠いた菊花賞(Jpn1)は4コーナーで圏外に消えた。それからのヴィクトリーは試行錯誤の連続だった。ダートを使ったり、逃げたり、追い込んだり。しかし、気まぐれな天才は2度とその資質をターフで示すことなく現役生活を引退した。

 「現役時代はつかみどころのない馬でしたが、持てる能力は一流でした。種牡馬としては真面目なタイプで担当者を困らせることもないようです。そして、何よりもサンデーサイレンス牝馬とは相性の良さそうな血統ですよね。幸い、初年度からある程度の繁殖牝馬を集められたので、その仔たちが生まれる来春が楽しみです」という。