クーヴェルチュールを訪ねて~富菜牧場
2007年のキーンランドC(Jpn3)覇者クーヴェルチュール(富菜牧場生産)を訪ねた。現在は生まれ故郷の富菜牧場で繁殖生活を送っている。
すっかり秋が深まってきた馬産地。クーヴェルチュールは来年の出産へ向け、ゆかりの地で静かに過ごしている。同牧場の富菜さんに近況を伺うと、「元気に過ごしています。初産も問題なく、子育ても上手い馬ですよ。」と、明るい表情を見せる。容姿が黒毛の牛のようだったことから、当歳時に“チョコちゃん”と名付けられたクーヴェルチュールは、今もその愛称で呼ばれている。放牧地に行き、“チョコちゃん”と富菜さんが声をかけると、黒光りした馬体をこちらに向けてくれた。
「相変わらず気の強さはありますね。牧場ではボスの存在です。」と、富菜さん。可愛らしい愛称とは対照的な素顔を知っている。秋は朝6時30分から夕方5時頃まで放牧。まもなく訪れる冬を前に、そろそろチョコちゃんに冬毛が生えてくる時期だ。
この春には父アドマイヤムーンの牝馬を出産した。当歳について富菜さんは、「皮膚の良い馬ですね。どちらかと言うと父に似ているかなと思います。」と、紹介。立ち写真を撮るとすぐにポーズを決め、従順な面を見せていた。母は短距離馬だったが、ジャパンカップ(G1)優勝馬との組み合わせだけに、クラシック・ディスタンスでも楽しみな存在だ。今年は更なるスピード能力の底上げを狙って、タイキシャトルを交配相手に選び、無事に受胎した。発情もわかりやすい馬だそうで、種付けも難なく進んだという。
現役時代はスピードを武器に16戦5勝の成績を残した。秋のG1へ向けて毎年快速馬が集うキーンランドC(Jpn3)で、3歳牝馬ながら古馬を完封したパフォーマンスは鮮烈だった。故障のため古馬となってからは十分にレースを使えずに引退となったが、その分、繁殖牝馬としてエネルギッシュな活躍が期待できそうだ。富菜さんは、「今後も無事に出産してくれればと思います。」と、思いやる。慣れ親しんだ大地で強い闘争心とスピードは脈々と受け継がれていくことだろう。