テラミスを訪ねて~平取 高橋啓牧場
テラミスを訪ねて~高橋啓牧場(平取町)
フェブラリーSの季節になると、メイセイオペラを思い出す。1999年、岩手公営競馬からフェブラリーSに挑戦した彼は、外国産馬含めたJRAの強豪15頭を力でねじ伏せた。地方競馬所属が、JRAのG1レースに優勝したのは史上初めてのこと。そして、おそらくこの先も2度と実現しないだろう偉業だ。
そのメイセイオペラの母テラミスは平取町の高橋啓牧場にいる。1988年生まれだから21歳。やや丸みを帯びた馬体。栗毛の大流星はメイセイオペラそっくりだ。いや、メイセイオペラが母親と似ているというべきか。
今年は出産の予定がないので、同じ境遇の馬たちと広い放牧地をあてがわれているが、他の馬たちとは混じろうとせずにポツンと1頭でたたずんでいる。雪の中で、じっと寒さをこらえていたかとおもえば、悠然と放牧地を歩き回る。年齢を重ねて馬体に衰えはあるものの、どん底から這い上がってきたような芯の強さを感じさせる雰囲気だ。
「本当だよねぇ。すごいお母さんだった。(メイセイ)オペラ以外にもすごい馬をたくさん残してくれた」と生産者の高橋啓さんが優しい笑顔を見せる。
メイセイオペラと同じ岩手公営競馬で14勝を記録したメイセイユウシャ(牡、父スマコバクリーク)。メイセイオペレッタ(牝、父タイトスポット)は400キロそこそこの小さな体だったが、盛岡競馬場の芝コースで行なわれる重賞オパールCに勝ち、メイセイプリマ(牝、父ジェニュイン)はJRAからデビューして菜の花賞3着、そしてアネモネSと同世代の牝馬では上位の力を示している。
それにしても、だ。近親にヨシノスキー(中山記念など重賞3勝)ライブリマウント(JRA最優秀ダート馬)がいるとはいえ、父タクラマカン、母の父オフィスダンサーという血統のテラミスが次々と活躍馬を出したのには驚いた。「ぼくだって、最初はそう思ったよ。タクラマカンの産駒で繁殖牝馬になったのが何頭いるのかはしらないけど、その中からG1馬が出るのだから、不思議だよね」と高橋さん。
テラミスは岩手競馬の2勝馬。血統も競走成績も凡庸の域を出るものではないが、オーナーの愛情によって繁殖牝馬への道が拓かれた栗毛馬には不思議な力が宿ったのだろうか。そんなファンタジーがあるわけないと思いながら、血統の奥深さを思い巡らせる。
「若いうちは気の強い馬だったんだよ。今でも相当だけど」と笑う。メイセイオペラが馬房で立ち上がって頭蓋骨を骨折したのは有名だが、ちょうどその頃に母テラミスも同じように頭部を強打した。その影響もあっていまもクビをかしげたままなのだが「あのとき、メイセイオペラは競走生命絶望なんて言われたけど、無事に復帰できた。母親がケガの半分を持っていってくれたのかもしれないね。そう思うよ」とポツリ。クビをかしげたままのテラミスを見ていると、本当にそう思う。
「もう、休ませてやろうかなって思っているんだ。いろいろな思い出をくれた馬だから、無理はさせたくない。後継馬もいるし、このまま功労馬として、うちに置いておきたい」という。たしかに、ここ数年は、受胎しても無事に出産できるケースが少なくなった。複雑な表情を浮かべる取材を察して「まぁ、でも、すごく良い発情がきたら付けちゃうかもしれないけど」と周囲を笑わせたが、名馬には名馬にふさわしい引き際があり、それを決めるのはオーナーであり、飼養者の高橋さんだ。
馬がいて、人がいて牧場がある。そんな物語が、ぼくは大好きだ。
日高案内所取材班
* 牧場さんへの訪問はご遠慮いただいております。ご了承下さい。
フェブラリーSの季節になると、メイセイオペラを思い出す。1999年、岩手公営競馬からフェブラリーSに挑戦した彼は、外国産馬含めたJRAの強豪15頭を力でねじ伏せた。地方競馬所属が、JRAのG1レースに優勝したのは史上初めてのこと。そして、おそらくこの先も2度と実現しないだろう偉業だ。
そのメイセイオペラの母テラミスは平取町の高橋啓牧場にいる。1988年生まれだから21歳。やや丸みを帯びた馬体。栗毛の大流星はメイセイオペラそっくりだ。いや、メイセイオペラが母親と似ているというべきか。
今年は出産の予定がないので、同じ境遇の馬たちと広い放牧地をあてがわれているが、他の馬たちとは混じろうとせずにポツンと1頭でたたずんでいる。雪の中で、じっと寒さをこらえていたかとおもえば、悠然と放牧地を歩き回る。年齢を重ねて馬体に衰えはあるものの、どん底から這い上がってきたような芯の強さを感じさせる雰囲気だ。
「本当だよねぇ。すごいお母さんだった。(メイセイ)オペラ以外にもすごい馬をたくさん残してくれた」と生産者の高橋啓さんが優しい笑顔を見せる。
メイセイオペラと同じ岩手公営競馬で14勝を記録したメイセイユウシャ(牡、父スマコバクリーク)。メイセイオペレッタ(牝、父タイトスポット)は400キロそこそこの小さな体だったが、盛岡競馬場の芝コースで行なわれる重賞オパールCに勝ち、メイセイプリマ(牝、父ジェニュイン)はJRAからデビューして菜の花賞3着、そしてアネモネSと同世代の牝馬では上位の力を示している。
それにしても、だ。近親にヨシノスキー(中山記念など重賞3勝)ライブリマウント(JRA最優秀ダート馬)がいるとはいえ、父タクラマカン、母の父オフィスダンサーという血統のテラミスが次々と活躍馬を出したのには驚いた。「ぼくだって、最初はそう思ったよ。タクラマカンの産駒で繁殖牝馬になったのが何頭いるのかはしらないけど、その中からG1馬が出るのだから、不思議だよね」と高橋さん。
テラミスは岩手競馬の2勝馬。血統も競走成績も凡庸の域を出るものではないが、オーナーの愛情によって繁殖牝馬への道が拓かれた栗毛馬には不思議な力が宿ったのだろうか。そんなファンタジーがあるわけないと思いながら、血統の奥深さを思い巡らせる。
「若いうちは気の強い馬だったんだよ。今でも相当だけど」と笑う。メイセイオペラが馬房で立ち上がって頭蓋骨を骨折したのは有名だが、ちょうどその頃に母テラミスも同じように頭部を強打した。その影響もあっていまもクビをかしげたままなのだが「あのとき、メイセイオペラは競走生命絶望なんて言われたけど、無事に復帰できた。母親がケガの半分を持っていってくれたのかもしれないね。そう思うよ」とポツリ。クビをかしげたままのテラミスを見ていると、本当にそう思う。
「もう、休ませてやろうかなって思っているんだ。いろいろな思い出をくれた馬だから、無理はさせたくない。後継馬もいるし、このまま功労馬として、うちに置いておきたい」という。たしかに、ここ数年は、受胎しても無事に出産できるケースが少なくなった。複雑な表情を浮かべる取材を察して「まぁ、でも、すごく良い発情がきたら付けちゃうかもしれないけど」と周囲を笑わせたが、名馬には名馬にふさわしい引き際があり、それを決めるのはオーナーであり、飼養者の高橋さんだ。
馬がいて、人がいて牧場がある。そんな物語が、ぼくは大好きだ。
日高案内所取材班
* 牧場さんへの訪問はご遠慮いただいております。ご了承下さい。