馬産地コラム

あの馬は今Vol.63~ヤマニンシュクル

  • 2009年12月21日
  • 錦岡牧場で繁殖生活を送っているヤマニンシュクル
    錦岡牧場で繁殖生活を送っているヤマニンシュクル
  • 同

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 2003年12月7日 阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)
 優勝馬:ヤマニンシュクル

 もし、仮に運命の神様というものがいるのであれば、あまりに残酷ではないか。そんな風に思わざるを得ない。

 2006年11月12日、京都競馬場。2003年の最優秀2歳牝馬ヤマニンシュクルの競走生命は、その日突然、幕を下ろされた。そのわずか半年前には不治の病といわれた屈腱炎から奇跡のカムバックを果たし、中山牝馬S(G3)に優勝。「この1勝は嬉しいです。途中、何度も引退の話が出るくらいの大きな怪我を乗り越えてのものだけに、本当に嬉しい(土井睦秋氏)」と言わしめたばかりの出来事だった。

 レース後、ヤマニンシュクルにくだされた診断結果は、右前浅屈腱の不全断裂。末脚を武器にする同馬にとって、直線さぁこれから、というときに前をカットされた代償はあまりに大きなものだった。それは、加害馬が降着の憂き目にあうほどの大きな不利だった。

 そして牧場に戻り、母となった。

 「何度も大きな怪我をしている馬ですから、人間に対して信頼感を持っているのかもしれませんね」と現在同馬が繁殖生活を送る錦岡牧場の高見進繁殖主任がいう。「この馬のお母さん(ヤマニンジュエリー)は気性の激しい馬でした。でも、娘は違いますね。なんていうか、普通です」と笑った。

 2度わたる大きな怪我を乗り越えたヤマニンシュクルは初年度にディープインパクトを配合。無事に牡馬を出産した。2年目はアドマイヤムーンの牡馬を。そして今年もアドマイヤムーンを受胎している。

 3年と4か月にわたるヤマニンシュクルの現役生活は、その大半が休養というものだった。

 「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」というのはアテネオリンピックの女子マラソンで金メダルを取った高橋尚子さんが好きだという言葉だ。彼女もまた、幾多の怪我を乗り越えて現役生活をまっとうした。

 長い冬の日々をじっと耐え、花を咲かせたヤマニンシュクルが、母としてさらなる大輪を咲かせてくれることを期待したい。
取材班