馬産地コラム

あの馬は今Vol.58~テイエムオペラオー

  • 2009年11月27日
  • HBA門別種馬場にて種牡馬生活を送っているテイエムオペラオー
    HBA門別種馬場にて種牡馬生活を送っているテイエムオペラオー
  • 同

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 2000年10月29日 天皇賞(秋)(G1)
 優勝馬:テイエムオペラオー


 2000年“世紀末覇王”テイエムオペラオーは孤独なチャンピオンだった。その年、同馬が記録したのは重賞8連勝、G1レース5連勝。そのどれもが、好位置をキープして、そしてゴール前でスッとでる完璧なレース運びによって成し遂げられたものだった。強さを感じさせない強さは、テイエムオペラオーの代名詞的なものであった。

 天皇賞(春)(G1)、宝塚記念(G1)、天皇賞(秋) (G1)、ジャパンカップ(G1)、そして有馬記念(G1)。この年、これらG1競走は、テイエムオペラオーの強さを確認するためだけのレースとなった。古馬のチャンピオンディスタンスのG1競走5レース完全制覇は、過去、そして現在にいたるまで誰も成し遂げたことがない。そして、26戦の競走キャリアの中で積み上げた賞金18億3518万9000円は世界最高収得賞金にもなった。

 「天国に一人でいたら、これより大きな苦痛はあるまい」といったのはドイツが生んだ天才詩人のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだが、テイエムオペラオーが守り続けたものも、追いかけてくるもののいない孤独だった。

 天皇賞(秋)(G1)。ライバルなきチャンピオンが挑んだのはジンクスだった。1番人気12連敗中。そして4大競馬場でG1レースを制した馬は、長いJRA史上でも存在していない。しかし、そんなことは「強い」ということの前には絵空事でしかなかった。

 ロードブレーブとミヤギロドリゴが引っ張る展開で前を行くメイショウドトウを常に射程圏内においてのレース。あと、和田騎手がすべきことは、あまり早めに先頭に立ちすぎないことだけだった。そしてゴールでは2馬身半。「強い、強い、テイエムオペラオー、6連勝でゴールイン」の実況アナウンスが場内に響き渡っていた。

 しかし、年が明けるとテイエムオペラオーの強さにも翳りがみえるようになった。アグネスデジタル、ジャングルポケット、そしてマンハッタンカフェ。若き挑戦者たちの引き立て役になり、そして有馬記念(G1)5着を最後にターフをあとにした。

 現在、テイエムオペラオーはHBA日高軽種馬農協の門別種馬場で種牡馬生活を送っている。「いまでも多くのファンが会いに来てくれます。女性ファンが多いですね」とスタッフ。普段は借りてきた猫のようにおとなしいという。この日も関西から来たという家族連れがスタリオンを訪れていた。「だって、強かったじゃないですか」と言いながら、カメラのファインダーをのぞき込んでいる。

 と、そのときテイエムオペラオーが走り出して歓声があがった。放牧地を走り回るテイエムオペラオーは、もう孤独ではなかった。

取材班