馬産地コラム

あの馬は今Vol.54~スイープトウショウ

  • 2009年06月22日
  • トウショウ牧場にて繁殖生活を送っているスイープトウショウ
    トウショウ牧場にて繁殖生活を送っているスイープトウショウ
  • 同

  • アグネスタキオンとの間に生まれた初仔と共に
    アグネスタキオンとの間に生まれた初仔と共に
 2005年6月26日 宝塚記念 
優勝馬 スイープトウショウ

 フランスの画家マリー・ローランサンは「死んだ女よりも、もっと哀れなのは忘れられた女です」という詩を残しているが、スイープトウショウは「記録よりも、記憶に残る名馬」として、いまも私たちの心の中に鮮烈な印象を残している。

 それは、目の覚めるような追い込みかもしれない。あるいはゲート入りを嫌がったり、調教を拒否しようとした気性難かもしれない。はたまた「歴代賞金女王」を目前にした潔い身の引き方だったかもしれない。強さ、モロさ、潔さ。それらがすべてスイープトウショウという名馬の魅力だ。

 牝馬としては史上2頭目。39年ぶりに宝塚記念(G1)に優勝したあのレースは、まぎれもなく2005年上半期のチャンピオン決定戦だった。同レース2連覇を狙うタップダンスシチー、勝てばG1レース4連勝となる前年の年度代表馬ゼンノロブロイ。ハーツクライは自慢の末脚に磨きをかけた存在になっていたし、未完の大器リンカーンも虎視眈々と初タイトルを狙っていた。

 しかし、文字どおりにそれらを“エンドスウィープ(一蹴)”したのがスイープトウショウだった。オークス(G1)2着で、秋華賞(G1)優勝馬。前走の安田記念(G1)では牡馬に混じって2着。それでも、この気まぐれな女王はファン投票21位、当日の単勝オッズも11番人気と高い評価を得ることは出来なかった。そうした評価をあざ笑うかのような快走劇。その陰には、鶴留厩舎スタッフ全員が辛抱強く、この馬の能力を引き出そうという執念があったという。

 あれから4年の歳月がたった。2007年のエリザベス女王杯(G1)3着最後に引退したスイープトウショウは、生まれ故郷のトウショウ牧場で繁殖牝馬になっている。

 「いろいろと性格の部分が取り立たされていましたので最初は心配しましたが、今ではすっかり良いお母さんですよ」と志村吉男場長がほっとしたような表情で話す。

 「実は、そうした傾向は牧場時代からあったんですけどね」という。走ることが嫌いで、育成時代には馬房から出ることを拒否してスタッフを困らせたことがあった。いまでも種付のときなどは馬運車に乗らずに手を焼かせるらしい。それでも「無事にアグネスタキオンの牝馬を出産しました。母乳の出もよいですし、仔育てもすごく熱心です」という。

 あれから4か月弱。今ではすっかり成長した仔馬を遠くから見守るやさしいお母さんだ。「放任主義というのでしょうか、べたべたにかわいがるというのではなく、ある程度は仔馬を自由にさせています。初仔ではありますが、これなら離乳も楽だと思います」と志村さんも目を細めている。ファンならずとも注目の初仔は早ければ、2011年の夏にはデビューする。

               取材班