馬産地コラム

あの馬は今Vol.43~JCダート・クロフネ

  • 2008年12月03日
  • 今のクロフネ~社台スタリオンステーション
    今のクロフネ~社台スタリオンステーション
  • 同

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 2001年11月24日 
  ジャパンカップダート 優勝馬 クロフネ

 吐く息に白さを感じさせるようになった頃、クロフネに会うために社台スタリオンステーションを訪ねた。あと間もなくすれば、大勢の繁殖牝馬と生産者で賑わいをみせる同スタリオンだが、今は訪れる人も少なく静けさを保っている。
 現役時代から白い馬体のクロフネは、残り少なくなった緑の感触を楽しむように放牧地を歩き回っていた。同期生のアグネスタキオンは入り口付近でじっとたたずみ、ディープインパクトはせわしなく動き回る。キングカメハメハ、ダイワメジャーは少しでも美味しそうな草を求めて歩いている。
 クロフネはというと、広い放牧地を最小限に使うように同じようなところを行ったり来たり…。まるでクロフネだけに見える専用通路があるかのようだ。そこだけ芝がはげてしまっている。
 
 そういえば、あの日の東京競馬場もそうだった。
 2001年10月27日、武蔵野S。クロフネはデビュー以来初めてダート競馬に出走した。しかし、それは本意ではなかった。陣営は、わずか2頭だけ出走を許された天皇賞・秋への出走を希望していた。ところが、枠の1つは当たり前のようにメイショウドトウが使い、残る1つをアグネスデジタルに奪われてしまった。その鬱憤を晴らすかのようにクロフネは、ハイペースの競馬を早めに追いかけ、そして楽に先頭を奪うとそのまま後続を突き放した。9馬身。従来のレコードを1秒2も短縮する走りだった。
 
 続いてジャパンカップダートに出走したクロフネは、ここで見るものの度肝を抜くようなパフォーマンスを発揮した。出遅れて後方からのレースを余儀なくされたクロフネは、向こう正面で進出を開始。グングン加速して3コーナーでは先行策をとっていた2番人気のアメリカの強豪リドパレスを楽々交わすと、4コーナーでは先頭に立つ勢い。直線の長い府中コースということを考えれば暴走に近いような戦法だった。しかし、彼の脚色はそのまま衰えることなく前年の覇者ウイングアローを7馬身突き放してゴールへと飛び込んだ。勝ち時計はレコードタイムを1秒3更新するもの。まるで、クロフネ1頭だけが別の競馬をしているような、そんな競馬だった。

 種牡馬となってからのクロフネは、現役時代とは少し異なるパフォーマンスを発揮して多くの人たちの期待に応えている。初年度からG1ウイナーを輩出し、今年はスリープレスナイトやユキチャン、そしてポルトフィーノで競馬サークル以外にも話題をふりまいた。
 そんな人騒がせな面もまた、クロフネらしいところだ。

                  日高案内所取材班