馬産地コラム

あの馬は今Vol.59~ファレノプシス

  • 2009年11月30日
  • ノースヒルズマネジメントで繁殖生活を送っているファレノプシス
    ノースヒルズマネジメントで繁殖生活を送っているファレノプシス
  • 同

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  2000年11月12日 エリザベス女王杯(G1)
  優勝馬:ファレノプシス

 枝垂れた花茎には、羽根を休めた妖精が集っていた。その美しい曲線は優美で、そして圧倒的な存在感を示している。胡蝶蘭は、芯の強い花だ。一度咲いてしまえば、2~3か月はその姿を楽しむことができる。しかし、ひとつの季節が終わり、その花茎に再び生命を吹き込ませるには、細心の注意を払って管理する必要がある。日光を苦手とし、寒さに弱く、通風を好みながら、湿度が不可欠という難しい花だが、しっかりと手を尽くせば、凛とした姿をみせてくれる。新冠町のノースヒルズマネジメントで繁殖生活を送るファレノプシスも、現役時代はそんな競走馬だった。

 桜花賞(G1)をレコード勝ち。秋華賞(G1)を勝って1998年の最優秀4歳牝馬に選出されたファレノプシスは、まぎれもなく天才ランナーだった。新馬、さざんか賞、そしてエルフィンSと3連勝。出遅れたチューリップ賞(G3)、距離を意識しすぎたオークス(G1)を除けば、完璧なレースを繰り返し、同世代の牝馬には敵なしを強くアピールしていた。

 しかし、そんな天才少女も異世代の牡馬を相手にすると、やや勝手が違った。健闘はするのだが結果がでない。2冠牝馬ゆえに斤量にも恵まれることがなく、苦戦を続け、選んだのはエリザベス女王杯(G1)での引退だった。すでに最後の勝利から2年。しかし、その2年の間に7戦のキャリアしか積み上げられなかったことが陣営の苦悩を物語る。

 そんな状況下のラストランでも、ファレノプシスはファレノプシスらしさを十分にみせた。桜花賞馬が古馬になってG1競走に勝利したのはグレード制導入以来初めてのことで、牝馬のG1競走3勝は史上2位タイ(当時)。最後に大輪の花を咲かせて、ファレノプシスはターフを去った。

 あれから9度目の冬がやってくる。その間、6年連続で産駒を出産。1年おいて、今年もまた産駒を出産させたが、その7頭すべてが牝馬というのも名血らしいといえば、らしい。ほとんどの産駒が勝ち上がっているが、まだ母の域に達する産駒に恵まれていない。しかし、偉大なる母を思えば、それもある意味で当然の話。「それを言い訳にはしたくありません。私たちは、常に上を目指す集団でありたいですから」とノースヒルズマネジメントでは意欲を見せている。もしかしたら、それはある日突然やってくるのかもしれない。

 「幸せが飛んでくる」それが胡蝶蘭の花言葉だからだ。
取材班