馬産地コラム

あの馬は今Vol.56~ティコティコタック

  • 2009年10月19日
  • バンブー牧場で繁殖生活を送っているティコティコタック
    バンブー牧場で繁殖生活を送っているティコティコタック
  • 同

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 2000年10月15日 秋華賞(G1)
 優勝馬 ティコティコタック

 「この馬がいるから。この馬が元気な間にあの喜びをもう一度って、そう思いますね」とバンブー牧場の竹田辰紀さんがまっすぐな視線をなげかける。「あの感激は忘れられないです。自分が手掛けた馬がG1の大舞台を制したのは、あのときが初めてでしたから」と強い口調になる。

 バンブー牧場は、1965年に現代表でもある竹田春夫さんが創業した。半世紀近い歴史の中でダービー馬バンブーアトラス、菊花賞馬バンブービギンらを輩出した日高の名門牧場だ。

 今年で76回目を数えた日本ダービーだが、ダービー馬生産牧場数といえば、全国でおよそ50をきるぐらいだろうか。現在も生産を続けている牧場となれば、その数はさらに少なくなる。最盛期には日本全国で3500を超える牧場が生産を行なっていたことを考えれば、ダービー馬生産牧場が選ばれた牧場であるということがご理解いただけるだろうか。

 そこでティコティコタックは7年目のシーズンを送っている。「4年続けて産駒を産んでくれたので、今年は種付を休みました」と竹田さん。昨年はアグネスタキオンの牡馬を、この春はマンハッタンカフェの牝馬を無事に出産。その後はご褒美をもらって鋭気を養う日々だ。同じように休みをもらった繁殖牝馬6頭とともに放牧地で来シーズンに備えている。

 「おとなしい馬ですよ。馬同士の中でも目立たないようにしているみたいです」という言葉通りに群れからちょっと離れた場所で草を噛んでいる。近くを人間が通れば、そちらのほうへ歩み寄る。ちょっと離れた後ろを2頭の繁殖牝馬が追いかけてくる。従わせている、というよりもなにやら慕われているような、そんな雰囲気だ。

 「最初の年に受胎するまで少し苦労したのと、2年目は不受胎でしたが、そのあとは順調ですね。ただ、生まれた仔が不運続きでファンの方には申し訳ないです」と渋い顔だが、2番仔になるクリスタルバンブー(父クロフネ(牝3歳))と3番仔になるダンスインザダークの牝馬(2歳)が後継牝馬として牧場の裾野を広げてくれる予定だという。

 「“ティコ”はいろんなことをぼくたちに教えてくれます。レースに勝つ感激も教えてくれましたし、その仔にも学ぶことが多いです。怪我や病気もそうです。そういったことがひとつずつ牧場の財産になります」と竹田さん。重賞競走というのは、勝つときは意外なほどにあっさりというケースが多いが、その実、重賞競走に生産馬を出走させることはある意味で勝つこと以上に難しいものだ。ダービー馬生産牧場といえども、それは例外ではない。

 「なんとしても、という思いはあります。そのために牧場を整備し、さらなる強い馬づくりを目指しています。競馬場でティコの仔を見たら、応援してください」とは牧場から預かったメッセージだ。
取材班