馬産地コラム

あの馬は今Vol.55~マイネルラヴ

  • 2009年09月28日
  • ビックレッドファームで種牡馬生活を送っているマイネルラヴ
    ビックレッドファームで種牡馬生活を送っているマイネルラヴ
  • 同

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  1998年12月20日 スプリンターズS(G1)
  優勝馬 マイネルラヴ

 マイネルラヴの、目が好きだ。研ぎ澄まされたような筋肉とシャープな顔立ちに似合わない優しい目。その瞳の奥には深い光が宿っている。

 初めてマイネルラヴに会ったのは、現役生活を引退して1年余りがたった頃だと思う。当時、静内町浦和にあったビッグレッドファームに彼はいた。雪解けでグジャグジャになった放牧地で寝転んだのだろう。泥だらけになった体と澄んだ瞳のギャップが今も印象に残っている。

 あれから8年の月日が経過した。ビッグレッドファームの種牡馬事業は静内から新冠にその拠点を移設し、日高でも有数の豪華なスタリオン施設が建立された。そこに、いまや日高を代表する名種牡馬の1頭になったマイネルラヴがいる。

 振り返ると、すごい時代だったような気がする。世界中から日本に馬がやってきて、しのぎを削っていた。同期にはグラスワンダーがいてエルコンドルパサーがいた。1歳上の世代にはタイキシャトルやシーキングザパールもいた。そんな外国産馬による競演時代、マイネルラヴも存在感をしっかりと示した1頭だった。中でもフランスでG1ウイナーの称号を得てきたタイキシャトルと、シーキングザパークをまとめて抑え込んだスプリンターズS(G1)は今でも同レースの名勝負のひとつとして語り継がれている。

 抜群のダッシュを見せたのはエイシンバーリンだった。そこにシンコウフォレスト、トキオパーフェクトらが絡んで前半から猛烈なラップを刻んだ。圧倒的な人気を背負ったタイキシャトルは絶好位で競馬を進め、シーキングザパールは後方待機。マイネルラヴはというと、タイキシャトルを見るような位置にポジションを取っていた。
 
 3~4コーナーでタイキシャトルが先行勢をとらえにかかると、低い重心でマイネルラヴが襲いかかる。4コーナーをまわってからはまるで2頭のマッチレースのような様相になった。全身の筋肉を躍動させて、マイネルラヴがタイキシャトルを抑え込み、外から猛烈な脚を見せたシーキングザパールを退けた。あのレースから11年が経過しようとしている。スプリンターズS(G1)の日程は冬から秋に変更されたが、レースの興奮は今も変わらない。

 「マイネルラヴはやっぱり人気がありますよね。たくさんのファンに愛されている馬です」とスタリオンスタッフが胸を張る。この日もそうだった。ただ、いつもよりも多いギャラリーの存在を意識してか、ややイレ込みが目立つ。

 「今日はとくに危ないですから、あまり近づかないでください。ちょっと遠目からお願いします」とスタリオンスタッフが見学者たちに注意を促した。種牡馬見学に関して厳しい制約を設けていない同ファームでは、厩舎の中で、放牧地の柵越しに、多くの見学者たちが、思い思いにかつてのヒーローたちとの再会を楽しむことができる。「この馬は、もともとアグレッシブな馬ですけど、今日は特にですね」とスタッフが苦笑いする。

 そんなアグレッシブさを受け継いだ産駒はコンスタントに良く走り、9年目のシーズンとなる今年は、日高地区で2番目となる175頭への種付を行なった。いかにタフな馬でも堪えるはずの数字だが、今では、もうすっかり元気を取り戻したようだ。14歳。心身ともに充実しているのだろう。手綱を解かれ自由を与えられると、放牧地の奥を目指して抜群のダッシュをみせた。見学者たちからは歓声があがる。

 「産駒は、本当にコンスタントに走ってくれていると思います。あとは大物が出てくれれば言うことありませんね」とスタッフがいう。大物は、きっと出るだろうと思う。いつも良い意味で期待を裏切ってくれたマイネルラヴだから。
取材班