馬産地コラム

あの馬は今Vol.45~桜花賞 チアズグレイス

  • 2009年04月15日
  • 今のチアズグレイス~浦河 三嶋牧場
    今のチアズグレイス~浦河 三嶋牧場
  • 同

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 2000年4月9日 桜花賞
       優勝馬 チアズグレイス

 本当に申し訳ない話だが、この年の桜花賞はあまり記憶にない。もっとも桜花賞に近いと思っていたマヤノメイビーが暮れの阪神3歳牝馬S3着からぶっつけ本番になったこと、祖母の全姉にテスコガビーがいて、心情的にもっとも応援したかったエンゼルカロがすっかり調子を落としてしまっていることが興味をそいだ。
 
 圧倒的1番人気に指示されていたサイコーキララの父はリンドシェーバー。G1とは無縁の種牡馬だ。2番人気のレディミューズは、母が名牝シンコウラブリイだが、3戦1勝の成績はいかにも物足りなさが残り、ダートで2勝をあげてきたシルクプリマドンナが3番人気。群雄割拠といえば聞こえは良いが、どんぐりの背比べ的なメンバー構成だった。強い馬が勝つのではなく、勝った馬が強い。そんなつもりで見ているのだから、感情移入ができるわけがない。ボクにとって、こんなクラシックレースも珍しい。
 
 そんな能天気な観戦者を尻目に、チアズグレイスは強かった。ここまで7戦2勝。先行しても追い込んでも1歩足りないレースを続けていたチアズグレイスに対して陣営は、このレースにむけてマイナス16キロとギリギリまで同馬を追い詰めた。そして、4枠8番という絶好枠からすんなり先行した同馬は、直線に向くと早めに抜け出して後続の追撃を封じ込めた。2着マヤノメイビーには1馬身半。これは、デビュー以来、同馬が2着馬につけた最大着差でもあった。同馬の父サンデーサイレンスは、この勝利で5大クラシック完全制覇。そして、生産した白井牧場はクラシック初制覇、思えば、応援したかったエンゼルカロもまた同牧場の生産馬だった。

  あの春から9年の歳月が過ぎ、チアズグレイスは浦河町の三嶋牧場にいる。2001年5月に現役生活にピリオドを打った同馬は、1年間を休養に充てて2002年春から日高町のナカノファームで繁殖生活に入って、チアズガディス(牝、父フレンチデピュティ)を生んだ。この馬は、母同様に第1回函館競馬初日に勝ちあがり、話題となった。その後、不運が続いたこともあって、2005年秋、シンボリクリスエスを受胎した状態で、ここ三嶋牧場に移動してきた。「普段はおとなしくて放牧地の中でもポツンといることが多いですね。それでも、機嫌を損ねると利かない面も持ち合わせていますよ」と繁殖スタッフ。

 三嶋牧場ではシンボリクリスエス、クロフネ、キングカメハメハと3年連続して牝馬を生み、今年もキングカメハメハの産駒を出産予定だ。「受胎も良いし、仔育ても上手でよい母親ぶりです。何よりもチアズグレイス自身が人間に慣れていますよね」とスタッフの評判も良い。産駒はチアズガディスのほか、2番仔となるメイショウカガリビもJRAで勝ちあがっている。
 「産駒が競馬で勝つってことは大変なことなんです。でも、チアズグレイスの仔にはもっと高い期待が寄せられていることも分かっています。その期待に応えて欲しいですね」とスタッフは声を揃える。与えられたハードルは高いが、きっとチアズグレイスなら、それを乗り越えられる。そう思うのは取材者だけではないはずだ。

                  日高案内所取材班