馬産地コラム

あの馬は今Vol.39~NHKMC・テレグノシス

  • 2008年07月17日
  • 今のテレグノシス~レックススタッド
    今のテレグノシス~レックススタッド
  • 同

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2002年5月4日 NHKマイルC
 優勝馬 テレグノシス

 90年代前半から急速に勢力を増やしつつあった外国産馬は、90年代なかばになると、もう彼らを抜きには競馬番組が成り立たなくなるほどにその数を増やしていった。日本軽種馬登録協会の調べでは91年には全体の1.9%にすぎなかった外国産馬は、ピーク時の99年には12.4%(820頭)。もはや、彼らは特別な存在ではなくなっていた。そんな外国産馬のために新設されたのが「NHKマイルC」。1着~8着までを外国産馬が独占した第1回から第6回まで1、2着馬はすべて外国産馬で占められた。スピード、瞬発力、そして完成度。有力内国産馬が皐月賞、ダービーを目標にすることを考慮にいれても外国産馬の前には日本産サラブレッドは顔色なしの状況が続いていた。
 
 そんな状況を打破したのがテレグノシスだった。第7回NHKマイルC。人気は皐月賞3着のタニノギムレットだったが、じっと馬群の中で息を潜めていたテレグノシスが直線坂上あたりで抜け出してリードを広げた。直線で致命的な不利を受けながらも態勢を立て直したタニノギムレットが大外から脚を伸ばすが、すでに大勢が決したあと。テレグノシスが先頭でゴールを駆け抜けていた。
 
 体質が弱く、1度レースを使うとその反動で思うようなローテーションが組めないうえに、寂しがり屋で、ほかに馬がいないと運動ができないような甘えん坊がみせた一世一代の豪脚だった。その後、テレグノシスは長くマイル戦線のバイプレイヤーとして活躍し、フランスや香港へも遠征。仏のジャックルマロワ賞で3着するなどワールドワイドな能力を示したのちに昨年から新ひだか町のレックススタッドで種牡馬生活をおくっている。
 
 「おとなしい馬で、人間のことが大好きみたいですね」とスタリオンスタッフ。2年目シーズンを終えても穏やかな性格に変わりはない。いまの様子からは、あの激しい末脚は想像しがたい。牡馬にしてはやや薄手で、独特の胴伸びと歩様は父トニービン譲りのもの。カメラを向けると視線をくれて、そしておもむろにラチ沿いを歩き、まるで褒美をねだるかのように近づいてきた。生まれ持ったやさしい性格は、変わらないようだ。そっと手を伸ばすと、鼻先からすっと伸びた美しい流星が手に触れた。吐く息の暖かさが心を和ませてくれる。

 「種付はベテランのように上手でした。産駒も何頭か見ましたが頭が軽く、父親に似たタイプが多いような気がしますね」とは、実際に、この春テレグノシス産駒を誕生させた日高の生産者氏。テレグノシスが直線でみせた爆発力に魅入られたひとりだと言う。
 テレグノシスとは、未来を予見できる能力の意味だという。その優しい目には、何が映っているのだろうか。

                 日高案内所取材班