馬産地コラム

あの馬は今~スプリンターズS・ダイタクヤマト

  • 2007年10月09日
  • 今のダイタクヤマト~HBA門別種馬場
    今のダイタクヤマト~HBA門別種馬場
  • 同

 Vol.30 スプリンターズS GⅠ
 2000年10月1日 優勝馬 ダイタクヤマト

 20世紀のカウントダウンが近づきつつあり、何かが生まれそうな、そんなことを予感させる日々が続いていた。折りしも、番組の大幅改革により、それまで暮れに行われていたスプリンターズSが秋のG1シリーズ第一弾へと移動し、それを祝うかのような豪華メンバーが顔を揃えていた。
 出走馬16頭中、15頭が重賞勝馬で、しかも7頭のG1ホース。1番人気のアグネスワールドは2年連続で欧州スプリントG1を制してきた実力馬だ。悲願でもある国内G1制覇は手を伸ばせば、届きそうなそんなところまで来ていたような気がする。2番人気は前年の覇者ブラックホーク。前哨戦のセントウルSは59キロを背負って、しかも最後の直線で致命的な不利を受けながらもレコード決着のクビ差2着と健在ぶりをアピール。そのセントウルSの覇者ビハインドザマスクが3番人気で続いていた。
 曇天の空。前日の雨で馬場状態は「やや重」。豪華スプリント対決にふさわしい舞台とはいえないが、それでも鮮やかな緑の絨毯は薄日に映え、レースの近づきとともに不思議な緊張感を競馬場内に与えていた。
 レースでは、大方の予想通りに3歳馬ユーワファルコンが馬群を引っ張った。外枠からレースの流れにのったダイタクヤマトが2番手で続き、ジョーディシラオキ、タイキトレジャーがこれに続く。アグネスワールドはその直後を進み、1番枠からスタートしたブラックホークは内々を進む。後方で脚を溜めていたのはマイネルラヴ、キングヘイロー、ビハインドザマスクといった面々だ。どこか落ち着きのない流れの中4コーナーで先頭にたったダイタクヤマトの手応えがよい。仮柵がとれた良いところを気持ち良さそうに走るダイタクヤマトの存在に有力馬が気づいたときには、もう遅かった。アグネスワールドとブラックホークが馬体を併せるように追い込んできたが、最後までセイフティリードは縮まらず、1馬身4分の1差をつけてゴールへと飛び込んだ。16頭たて16番人気。G1レースにおける最低人気馬の優勝は89年のエリザベス女王杯(勝馬サンドピアリス)以来のこと。父ダイタクヘリオスが2度敗れたスプリンターズSを制した孝行息子となった。
 
 その後、7歳暮れまで現役生活を続けたダイタクヤマトはスワンS、阪急杯を制してスプリンターズSがフロックでないことを証明し、父ダイタクヘリオスと同じ日高軽種馬農協門別種馬場で種牡馬となった。父は、1年後に移動となってしまったが「本当によく似ていましたね。遠めからでは間違えちゃうような、それほど良く似ていたよ」とスタッフが懐かしそうに話してくれた。種牡馬となった初年度こそ33頭の繁殖牝馬に配合することができたが、その後はジリ貧でここ数年はひとケタが続いている。「良いスピードを持っていたんですが、サンデーサイレンス系全盛時代でちょっとかわいそうでしたね。ビゼンニシキ、ダイタクヘリオスと続いた血を後世に伝えて欲しいのですけど」と表情が曇った。チャンスは少ないが、最低人気で勲章をつかんだ運も持っている。まだ13歳。現役時代同様にアッと言わせて欲しいものだ。

                 日高案内所取材班