馬産地コラム

あの馬は今Vol.18~阪神JF・メジロドーベル

  • 2006年12月22日
1996年12月1日 阪神ジュべナイルフィリーズ 優勝馬メジロドーベル

 あの、激しすぎる戦いを経て休息のときへ。メジロドーベルはいま、生まれ故郷でもある北海道伊達市にあるメジロ牧場繁殖場で静かなときをすごしている。仲間と戯れるその姿からは、気高く、孤高を守り通した女王の姿は想像できない。
 「競馬場にいた頃は、気が強かったそうですが、牧場に戻ってからは、だいぶ優しくなりましたね。賢いというのか、自分の今の役割を理解しているようです」と田中秀俊獣医師が目を細める。
 史上初の4年連続JRA賞受賞、4年連続G1制覇。メジロドーベルの歩んできた蹄跡は、まばゆいばかりに輝いている。しかし、それは決して平坦な道程ではなかった。
 メジロドーベルが生まれる前年、母のメジロビューティーは必死の思いで生んだサンデーサイレンス産駒を病気のために失っていた。ショックのためにホルモンバランスが崩れたのだろうか、発情がなく、排卵誘発剤を使っての種付となった。やっとの思いで受胎し、生まれた仔は、血液型の不適合から新生児黄疸症として診断された。そのためメジロドーベルは、母親の初乳を飲ませてもらえず、おまけに離乳後の当歳10月には右の後脚を骨折してしまった。「こんなに手がかかった馬で、あれだけ走った馬はいないんじゃないかなぁ」というくらいにアクシデント続きだった。「そんな牧場時代の苦労も、あれだけ結果を出してくれたことで吹っ飛びましたよ」。
 現在、メジロドーベルは母親として5頭目の産駒を受胎中だ。2年ぶりの産駒となったマンハッタンカフェとの間に生まれた娘はすでに離乳されており、現在はスペシャルウィークの仔を受胎している。「母親としては子供をとてもかわいがりますね。だから、ドーベルの仔は賢い仔が多いですよ」とスタッフが感心するくらいに子煩悩な一面を見せる。これまで生んだ4頭の仔はすべて牝馬。まるで自身の血を残すという使命を理解しているようだ。
 父メジロライアンのプライドを守った孝行娘が、今後、どのようにこの血を広げていくか。それは見守っていくのもブラッドスポーツと言われる競馬の楽しみ方でもある。

             胆振案内所取材班