馬産地コラム

あの馬は今Vol.11~スプリンターズSバンブーメモリー

  • 2006年10月10日
  • バンブーメモリー1
    バンブーメモリー1
  • バンブーメモリー2
    バンブーメモリー2
  • バンブーメモリー3
    バンブーメモリー3
 日本の競馬が少しづつだが、確実に変わりつつあることを知らしめた勝利だった。1984年に距離別競走体系が確立され、グレード制が導入された当初、スプリンターズSは「G3」格付けだった。その後、87年に「G2]へと格上され、現在のように「G1」格付けとなったのは90年のことだった。奇しくも、この年、欧州では名スプリンターのディジュールが年度代表馬に輝いた。
 
 この記念すべき年にバンブーメモリーの豪脚は馬群を切り裂いた。1分7秒8の日本レコード。先行勢がテンの3ハロンを32秒4で引っ張ったこともあるが、日本のサラブレッドが1分8秒0の壁を打ち破ったのはこれが最初だった。人気を分け合ったパッシングショットが出遅れて後方にあえぐ中、悠々と中団やや後方を進んだバンブーメモリーは10番手で直線に向くと、大きなストライドをさらに伸ばして、スピードの衰えた先行勢を一気に捕らえてさらに差を広げた。馬にとっては、2年連続の最優秀スプリンターを確実にする勝利で、翌週にオグリキャップのラストランを演出することになる武豊騎手にとって、この勝利がデビュー4年目にして中山競馬場での初勝利となった。
 
 「実は、バンブーメモリーの現役時代は英国に行っていたので見ていないのですよ。なんとか引退式だけは出席させてもらったのですが」と竹田辰紀さんが頭をかいた。
 一方、バンブーメモリーはといえば事務所の前に設けられた広めの放牧地でのんびりと草を噛んでいる。カメラを向けようとも、4白大流星の派手な栗毛馬は、競馬場でのイメージそのままに大またで放牧地を歩きながら下を向きつづけている。
 「ほおっておけば、1日中食べてますよ(笑い)。それでも、無駄に太ることなく元気です。内臓が丈夫で新陳代謝が良いのでしょうね。21歳になりますが、本当に元気です」と目を細める。
 「オグリキャップとの死闘など、現役時代に強烈な印象を残しているせいでしょうか、今でも多くのファンが会いに来てくれます。誕生日には、手紙やニンジンも届きますよ。幸せな馬ですね」と嬉しそうな笑顔をみせた。
 
 生涯を通して23回の重賞出走でG1挑戦が12回。ただ出走するだけではなく、2勝2着2回3着2回。半数以上で掲示板を確保した頑張り屋さんは、いま馬としての幸せを甘受しているようだ。
 「種牡馬は引退しましたが、繁殖牝馬を通してその血を後世に伝えていきたいですね。そして、1年でも長く元気でいて欲しいですね」と誓っている。

          8日 日高案内所取材班