馬産地コラム

あの馬は今Vol.12~秋華賞・テイエムオーシャン

  • 2006年10月13日
  • 今のテイエムオーシャン
    今のテイエムオーシャン
  • 今のテイエムオーシャン2
    今のテイエムオーシャン2
  • テイエムオーシャンの初仔(父テイエムオペラオー)
    テイエムオーシャンの初仔(父テイエムオペラオー)
「負けられない戦い」というのがある。血を分け合った父と母のため、あるいは馬に携わった多くの人のため、そして何よりも自分自身のプライドのために。
 この日のテイエムオーシャンがまさにそうだった。2歳8月に札幌競馬場でデビューするや2連勝。札幌3歳S(当時)こそ牡馬の強豪ジャングルポケット、タガノテイオーに屈したが、その後は阪神3歳牝馬S、チューリップ賞、桜花賞と連勝を伸ばした。抜群のスピードを武器に、後続の追撃を封じるレース振りは、祖母で85年の桜花賞馬エルプスを彷彿させた。
 
「桜花賞に勝って、オークス3着。だから、秋華賞には特別な思いがありましたね。血の宿命だから、距離に限界があるのは仕方ないと思いましたが、ここは勝って欲しいと思いました」と生産者の川越敏樹さんは振りかえった。
 この日、晴れの舞台に駒を進めてきたのはオークスで先着を許したレディパステルとローズバド。さらには桜花賞2着のムーンライトタンゴやローズSを制した夏のあがり馬ダイヤモンドビコーなど、世代の実力馬ほとんどが顔を揃える1戦となった。その中で1番人気に支持されたテイエムオーシャンは、3番手から直線抜け出すという鮮やかなレース内容で女王の座を射止めた。

 当時「世話になった久恒久夫先生(故人)が育てたエルプスの血を継承することができてよかった」と生産者は顔を紅潮させていた。それから5年。今は、すっかり母親の雰囲気を醸し出しているテイエムオーシャンはテイエムオペラオーとの間に“10冠ベイビー”を誕生させていた。やや小柄で筋肉質の体は母親似。額に流れる流星は曾祖母となるエルプス、そして母テイエムオーシャンの血を受け継ぐ証だ。
 「適度な放任主義で良い母親ですよ。放牧地ではリーダーですから、厩舎への出し入れいは1番ですけど、人間に対しては従順ですね。仔馬も母親同様に気の強いところがありますが、物覚えも良く賢いタイプだと思います。見に来られる方々みんなに褒めてもらえるのが生産者としても嬉しいですね」と満足そうに笑顔をみせた。

 現在、テイエムオーシャンは牧場見学「不可」となっているが、「引退の理由が骨折でしたから、牧場に戻ってきたときは静かな環境を与えたいと思ってました。そして、初年度は12月に流産してしまいましたからね」と苦しい胸のうちを披露してくれた。「馬は元気です。今年もテイエムオペラオーの仔を受胎していますので、無事に出産してくれることを願っています」とメッセージを預かった。

             12日  日高案内所取材班