馬産地コラム

あの馬は今Vol.24~天皇賞・ヒシミラクル

  • 2007年05月02日
  • 今のヒシミラクル~レックススタッド
    今のヒシミラクル~レックススタッド
  • 同

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2003年5月4日 天皇賞・春 優勝馬ヒシミラクル


 「日本の道100選」「桜の名所100選」にも選ばれ、2004年には北海道遺産に指定された新ひだか町静内の二十間道路。年間20万人もの人の目を楽しませてくれる7キロにも及ぶ桜並木の、その静内側入り口にレックススタッドがある。内外の高名種牡馬を揃え、生産者からも人気の高いスタリオンだ。02年の菊花賞、翌年の天皇賞・春、宝塚記念を制した近年最強ステイヤーのヒシミラクルはここで2年目のシーズンを送っている。
 
 「普段は、おとなしくて扱いやすい馬なんですよ。種付そのものも下手ではなく、むしろ上手な方だと思いますが、まだ若さゆえにがむしゃらなところがありますね」と同スタッドの小倉さんが言う。未勝利脱出まで10戦。その後は比較的コンスタントに勝ち上がっていったが、ぬぐえない穴馬的印象に加えて、地味な母系が種牡馬としての期待感、高揚感を妨げる。初年度こそ22頭の配合牝馬を得たが、2年目の今年は苦戦している。しかし、そうした逆境こそがヒシミラクルにはふさわしい。
 
 菊花賞は10番人気、7番人気の天皇賞・春を制して、宝塚記念は6番人気。いずれも単勝オッズは10倍を超え、宝塚記念優勝時には2億円近い払い戻しを受けた人がいることも話題となった。そんなエピソードも、どこかこの馬にはふさわしい。
 なぜならば、時代が混戦を求めていた。この年、前年の上位3頭マンハッタンカフェ、ジャングルポケット、ナリタトップロードはいずれもターフを去り、主役となるはずの4歳世代の年度代表馬シンボリクリスエス、皐月賞馬ノーリーズンは休養に、そしてダービー馬タニノギムレットにいたってはすでに種牡馬生活をスタートさせていた。1番人気に支持されていたのはG1レース初出走となったダイタクバートラム。レースは、そんな混戦模様を浮き彫りにするように澱みないペースで進んだ。スタート直後の1ハロン13・0を除けば、すべて12秒、または11秒台で流れるレース。派手ではないが、そうしたペースは確実に各馬からスタミナを奪っていく。逃げたアルアランは2周目の4角手前で失速し、そこに後方11番手に控えていたヒシミラクルが坂のくだりを利すように大外をまわって進出する。そのまま直線なかばで先頭にたつと、追い込むダイタクバートラム、サンライズジェガーを尻目にそのままゴールへと飛び込んだ。
 
 その後、秋の京都大賞典で2着。晩成のステイヤーとして活躍が期待されたが、脚部不安を発症して1年以上の休養を余儀なくされる。それでも不屈の精神力で復活を目指し、京都記念3着で復活、と思わせた矢先に再度脚部不安に襲われて種牡馬となった。常識的に見れば厳しい道のりだ。しかし、ヒシミラクルならば、4度目のミラクルを起こしてくれそうな、そんな気がする。 時代のはざまに咲いた白い大輪の花。

                 日高案内所取材班