馬産地コラム

あの馬は今Vol.26~オークス・ダイワエルシエーロ

  • 2007年06月04日
  • 今のダイワエルシエーロと初仔(父ブライアンズタイム)~下河辺牧場(門別)
    今のダイワエルシエーロと初仔(父ブライアンズタイム)~下河辺牧場(門別)
  • 同

  • 今のダイワエルシエーロ
    今のダイワエルシエーロ
2004年5月23日 オークス 優勝馬ダイワエルシエーロ

 1933年創業。日高でも有数の歴史を誇る老舗の下河辺牧場。2003年からは4年連続で日高のリーディングブリーダーとして君臨しているこの牧場が、ダイワエルシエーロのふるさとだ。現在は1歳年上の三冠牝馬スティルインラブ、そしてダイワエルシエーロの母であり桜花賞2着のロンドンブリッジとともに繁殖生活を送っている。
 
 「4月30日に、初仔となるブライアンズタイムの牝馬を出産しました。適度な放任主義で、よい母親ぶりを見せてくれていますよ」と下河辺俊行社長が嬉しそうに笑う。案内された放牧地では、母となったダイワエルシエーロが、視界の片隅にわが子を入れながら一心不乱に草を噛んでいる。まだ無邪気な仔馬が母親のそばを離れても、母は下を向いたまま一定の距離にまた近づいていく。理想的な母仔関係がそこにあった。
 「人間にはちょっと厳しい母親なんですけどね」とスタッフが悪戯っぽく笑う。それは世代の頂点にたったもののプライドなのかもしれない。少し離れたところには、母であるロンドンブリッジと、ダイワエルシエーロの妹にあたるアグネスタキオン牝馬が同じように草を噛んでいる。初仔だったダイワエルシエーロのときには母親が何たるかということを理解しなかったロンドンブリッジだが、今ではすっかり母親ぶりが板についている。のどかな、のどかな牧場風景だ。
 「ダイワエルシエーロは仲良しをつくるのがうまいんですよね。仔どもに対してだけでなく、他の馬に対しても適度な距離を保ちながら集団の中にいます」という。何も心配することはなさそうだ。
 
 初夏の陽射しを浴びながら、いろいろなことを考えていた。激しく、速かったロンドンブリッジは桜花賞で従来のレコードを更新する走りを見せたものの2着と敗れた。ロンドンブリッジの前に立ちはだかったファレノプシスと同じ勝負服に身を包んだスティルインラブは現在のレース体系になって唯一無二の三冠牝馬だ。ダイワエルシエーロのオークスは2コーナーから先頭にたっての逃げ込みだった。軽快なステップを踏むがごとくの逃げ脚が今も記憶に新しい。そんなことをひとつひとつ思い出していた。最高に贅沢な時間だった。
 どれほどの時間が経過したのかはわからない。気が付いたのは「もう、いいでしょうか」とスタッフから声をかけられたときだ。心地よさに心残りはあったが、あわててカメラを片付けて、取材ノートをポケットに押し込んだ。

              日高案内所取材班