馬産地コラム

あの馬は今~エリザベス女王杯・リワードウイング

  • 2006年12月11日
  • リワードウイング~優駿ビレッジ・AERU(浦河町)
    リワードウイング~優駿ビレッジ・AERU(浦河町)



Vol.16   1985年11月3日 エリザベス女王杯


“何か”が起きつつある秋だった。三冠馬ミスターシービーが雨中の引退式を終え、ライバルを失ったシンボリルドルフは天皇賞・秋でギャロップダイナの強襲にあって2着と敗れた。海の向こうの凱旋門賞ではサガスが史上3頭という1位入線2着降着という憂き目にあい、野球界ではバース、掛布、岡田の強力打線が擁した阪神タイガースが名監督広岡達郎率いる西武ライオンズを下して日本一に輝いていた。

 そんな中3歳牝馬戦線では中に輝かしい新星が生まれようとしていた。デビューは4月21日と遅れたが、ここまで不敗の4連勝。重賞初挑戦となったクイーンSを5馬身差で圧勝したアサクサスケールが、トライアルのローズSを快勝したタケノハナミや距離に不安を残すエルプスらを抑えて圧倒的な1番人気に支持されていた。奇しくもシンボリルドルフと同じパーソロン産駒。番狂わせ続きの秋でも、ファンはこの馬を信じた。
 しかし、このエリザベス女王杯を制したのは出走メンバー中最多の13戦のキャリアを持つリワードウイングだった。後方で脚をため、直線でアサクサスケールを豪快にさしきったその姿は、通ったコースこそ違え、ちょうど10年前の同じ京都競馬場でテンポイント、トウショウボーイらを抑えた父グリーングラスを彷彿させるものだった。競馬だけが持つ血のドラマにファンは酔った。
 そのエリザベス女王杯から20年の歳月が流れて、リワードウイングは浦河町の優駿ビレッジAERUで、相棒となるポニーの「アカリア」と仲良く、同じ放牧地で悠々自適に暮らしている。「本当に仲が良いんですよ。離したら、大変です」とスタッフが笑う。リワードウイングが1頭で寂しがっていたので、一緒に放したところ、すぐに仲良しになったという。24歳。しかし、体調の良さをアピールするかのように、栗毛の体は輝きを失っていない。額の流星も美しい輪郭を保ったままだ。
 「良く食べるんですよ。だから、元気だし、年齢の割には若々しいでしょう」とスタッフの大崎亘さんが胸を張る。「扱いが楽ですね。おとなしいし、悪いこともしない優等生です」と顔をなぜると、気持ち良さそうだ。夏になれば、多くのファンが再会を楽しんでいくと言う。これまで、10頭の産駒を生んで、うち9頭が競馬場でデビューしているが、母を彷彿させるような産駒には恵まれていない。それでも「オーナーの方も毎年1度は足を運んでくれます、幸せな馬ですね」と心強そうだ。

               日高案内所取材班