馬産地コラム

あの馬は今Vol.9~安田記念・タイキブリザード

  • 2006年06月05日
  • タイキブリザード~1日撮影
    タイキブリザード~1日撮影
  • 同

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1997年 安田記念 タイキブリザード

 「こちら(日高ケンタッキーファーム)に移動してきたのが4月上旬ですから、約2ヶ月になります。キツい馬だと聞いていたのですが、おとなしいものですよ」と同ファームアウトドア事業部の後藤さん。
 そんな声が聞こえたわけでもないだろうが、タイキブリザードは自由気ままに放牧地を歩きまわっている。人の姿が見えるとそちらの方に向かっていき、シャッターの音が聞こえるとポーズをとる。なかなかの役者ぶりにカメラマンが目を丸くした。さすがに世界を転戦した一流馬といったところか。
 「そういえば、先日も、岡部幸雄さんにご来場いただきました。元気そうだね、と安心したように帰られましたよ」という。そんなハプニングに遭遇できるのも、馬産地めぐりの楽しさのひとつかもしれない。

 世界的な名血と500キロを超える雄大な馬格を誇り、97年の安田記念を制したタイキブリザードは、昨年で種牡馬生活を引退し、現在は功労馬として新日高町の日高ケンタッキーファームで穏やかな日々を過ごしている。ここは、馬と自然に特化したテーマパーク。今でこそ、同じようなテーマパークはいくつかあるが、ここは老舗中の老舗。6月には創立28周年を迎えるという伝統に支えられている。83年の2歳チャンピオンに選出されたロングハヤブサ(25歳 父ラッキーソブリン)や98年の天皇賞・秋の覇者オフサイドトラップ(15歳 父トニービン)もおり、競馬ファンにとっては隠れた人気スポットだ。激しさとは縁遠い環境に置かれて、どの馬もゆっくりとした時間を過ごしている。
 「タイキブリザードも、誰でもふれあえる馬になって欲しいですね。今は、まだちょっと種牡馬時代の名残で、噛む癖があるのですが、基本的には穏やかな馬ですから大丈夫だと思いますよ」と後藤さん。自身も競馬ファンという彼は、GIウイナーのプライドを守りつつも、ファンにとって身近な存在であって欲しいという。
 「ニンジンが好きな、普通の馬ですよ。でも、この馬は普通の馬じゃないんですよね。まだデビューを控えた産駒もいますので、できることであれば去勢はしたくないのですが…」という悩みもチラリ。 
 そんな人たちに囲まれて、タイキブリザードは幸せそうだ。振りかえれば、この馬の競走時代は大きな期待を背負いながら、歯がゆい、じれったい、もどかしいの連続だった。そうしてつかんだ栄光。この馬には諦めないことの大切さを教わったような気がする。
 「競馬は、人生の比喩である」と詩人・寺山修司は言った。で、あるなら馬の一生は人生そのものだ。タイキブリザードの今後に幸多かれんことを祈りたい。
 
           6月1日取材 日高案内所 取材班