馬産地コラム

あの馬は今Vol.29~宝塚記念・スズパレード

  • 2007年07月07日
  • 今のスズパレード~イーストスタッド(浦河)
    今のスズパレード~イーストスタッド(浦河)
  • 同

1987年6月14日 宝塚記念 優勝馬スズパレード

 時間や状況こそ違え、あの日もこんな天気だったことを突然に思い出した。久しぶりにスズパレードを訪ねた日、夜半に降り出した雨が取材時間が近づくにつれてあがっていった。雲の切れ間からはさわやかな初夏の太陽が顔をのぞかせ、いつになく穏やかな時間が過ぎていく朝だった。
 
 第28回宝塚記念優勝馬のスズパレードは、ここ浦河町のイーストスタッドで19回目の夏を迎えている。多少、足元がおぼつかないシーンもあるが、薄い皮膚には体調のよさを示す銭形斑点が浮かび、瞳は輝きを失っていない。26歳。「年齢を感じさせない馬体でしょう。年相応といえば年相応ですが、若い馬たちに混じって元気ですよ」と青木大典場長の顔が明るい。聞けば、放牧地を走り回る日もあるそうだ。この日は、雨にぬれた草がおいしいのか、ただひたすらに草をかんでいる。写真を撮ろうとカメラを構えても顔をあげようとしないので、引き手をつけてもらったのだが、それでもわずかな時間を見つけては頭を下げてしまう。「すごい食欲だな」と二人で顔を見合わせた。
 
 隣の放牧地では、従兄弟であり、20数年間という時間をともに歩んできた僚馬スズマッハが年齢を感じさせない馬体で闊歩している。「あっち(スズマッハ)は本当に心身ともにタフですね。スズパレードはどちらかといえば繊細なタイプかもしれません」と苦笑いを浮かべた。
 人間には叩かれて強くなるタイプと褒められて伸びるタイプがいるが、この両頭はそういう意味でも対象的だったかもしれない。
 強い相手に善戦を続けて力をつけたスズマッハ。裏開催でじっくりと力を養ったスズパレード。良い悪いではなく、結果としてG1ウイナーの称号を得たのはスズパレードの方だった。
 そう、ちょうどあの日も、明け方から降り続いた雨が昼近くまで降っていた日曜日だった。この年の宝塚記念は、天皇賞・春の勝馬ミホシンザンこそ姿を見せなかったが2位入線のニシノライデン、3着スダホークはじめ5着のクシロキングが。安田記念からはフレッシュボイス(1着)ニッポーテイオー(2着)が駒を進めてきた。ほか中距離に的を絞ったタケノコマヨシや古豪シンブラウン、ゴールドウェイら顔を揃えて「春のグランプリ」にふさわしいメンバーとなった。
 
 レースは、シンブラウンの逃げをニシノライデンとニッポーテイオーが追いかける展開で始まった。スズパレードはこれらをマークする形でレースを進め、クシロキングが中団に。スダホーク、フレッシュボイス、ゴールドウェイの3頭は後方からの競馬となった。4角でニシノライデンがインコースから先頭に立とうというところ、外にニッポーテイオーが馬体を併せて単勝1、2番人気の争いになろうというところ、スズパレードがあっという間に先頭に踊り出てゴールでは2馬身の差をつけていた。G1レース6度目の挑戦でつかんだ栄光だった。
  
 その後、脚部不安に悩まされたスズパレードは15ヶ月ぶりとなる翌年のオールカマーをコースレコードで復活Vを飾ったものの、再度脚部不安を発症。ジャパンC、有馬記念で良いところなく敗れると25戦12勝2着1回3着1回の成績で引退、種牡馬となった。
 その後のスズパレードのことは、多くを必要としない。初年度に39頭の繁殖牝馬を集めたものの、以降はほとんど種牡馬としての資質を試されることなく2000年の配合を最後に穏やかな時間を過ごしている。
 「オーナーの暖かい愛情に包まれ、幸せな馬だと思います。まだまだ元気ですよ」とイーストスタッドからのメッセージだ。

                日高案内所取材班