馬産地コラム

あの馬は今Vol.28~安田記念・ブラックホーク

  • 2007年07月05日
  • 今のブラックホーク~ブリーダーズS.S.(門別)
    今のブラックホーク~ブリーダーズS.S.(門別)
  • 同

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 2001年6月3日 安田記念 優勝馬ブラックホーク

 それまで幾度か取材で訪れたことはあるが、改めてブラックホークをたずねたのは6年ぶりになる。
 場所は社台スタリオンステーションからブリーダーズ・スタリオン・ステーションに代わったが、あの日と同じようにブラックホークは見知らぬ人間の姿をみると入り口付近にまで来てくれた。ある程度の距離までは近づくのだが、一定の距離を保ち、そして付近を歩き回る姿は6年前と同じだ。現役時代から幅があって、丸みを帯びた馬体は、種牡馬としてのシーズンを重ねるごとにたくましさを増している。存在感のある馬体をアピールしてくれることは、カメラを備えた取材者にとても優しい存在だ。そんな仕草も変わっていないことにいろいろな意味でほっとする。
 
 この春は異父妹のピンクカメオが同距離同コースのNHKマイルCを快勝した。人気薄ながら、大外から豪快に伸びたその末脚は6年前の半兄を彷彿させた。時代は繰り返すなどというが、6年前の“あのとき”時代は、確かに世代交代を求めていた。同世代のタイキシャトル、1歳年下のエアジハード、キングヘイローが引退した古馬短距離路線。トロットスター、アグネスデジタルといった若い勢力が台頭し、ブラックホークは、その居場所を失いつつあった。阪急杯はダイタクヤマトに、高松宮杯はトロットスターの後塵を拝し、1番人気に支持された京王杯スプリングCは抜け出したところを2歳下の牝馬スティンガー、3歳年下のスカイアンドリュウの強襲にあって敗れた。
 
 そして迎えた安田記念。G2、G3では4着以下が1度もない堅実派とはいえファンの期待を集めたのは連覇を狙う香港の快速馬フェアリーキングプローンであり、若いスティンガー、ジョウテンブレーヴといった次世代を担う馬たちだった。それまでの21戦で8勝しているものの2着8回3着6回。近走では先行しては一息足りず、後方から追い込んでもやはり善戦にとどまった同馬に対する評価は7歳という年齢を加味されてデビュー以来最低の9番人気というものだった。
 スタート。真っ先に飛び出したのはブラックホークだったが、横山騎手が後方に下げる。代わってヤマカツスズランが先頭にたち、ブレイクタイムがこれを追いかけたためにラップは厳しいものとなった。前半3ハロンが34秒5。その後もラップは落ちずに5ハロン通過は57秒1。そうした激しい流れから抜け出したのはブレイクタイム。軽快な足取りでゴールを目指すが、そこを強襲したのが横山騎手が手綱をとったブラックホークだった。7歳馬の優勝は史上2頭目。15番人気ブレイクタイムとの枠連、馬連、ワイドはそれぞれ同レース史上最高額のものとなった。
 
 秋、香港を目指したものの、脚部不安を発症して夏前に電撃引退。4億2000万円のシンジケートが組まれて翌年から社台スタリオンステーションで種牡馬となった。
 「おとなしくて、手がかからないですよ。今年は130頭を越える繁殖牝馬に配合しましたが、とても元気です。タフな馬で頭が下がりますよ」とブリーダーズスタリオンステーションの坂本主任。昨秋に移動してきたばかりだが、いまや、同スタリオンの顔役として欠かせない存在だ。訪れるファンも多いという。託す夢は父仔2代の短距離王だろうか、それとも父が果たせなかった海外制覇だろうか。ブラックホークに託される夢は限りない。

      日高案内所取材班