重賞ウィナーレポート

2013年06月07日 東海ダービー(DW2013)

2013年06月07日 名古屋競馬場 雨 良 ダ 1900m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ウォータープライド

プロフィール

生年月日
2010年03月04日 03歳
性別/毛色
牡/黒鹿毛
戦績
国内:13戦8勝
総収得賞金
20,068,000円
マイネルラヴ(USA)
母 (母父)
キョウワセイラン  by  タイキシャトル(USA)
馬主
山岡 良一
生産者
辻 和明 (新冠)
調教師
塚田 隆男
騎手
兒島 真二
  • ウォータープライドの半妹キョウワセイラン2012(牝1歳、父パーソナルラッシュ)
    ウォータープライドの半妹キョウワセイラン2012(牝1歳、父パーソナルラッシュ)
  • ウォータープライドの生産者・辻和明さん(右)と、育成に携わった大作ステーブルのスタッフ
    ウォータープライドの生産者・辻和明さん(右)と、育成に携わった大作ステーブルのスタッフ
  • キョウワセイラン2012は今夏のサマーセールに上場予定
    キョウワセイラン2012は今夏のサマーセールに上場予定
  • 辻和明牧場の放牧地
    辻和明牧場の放牧地
  • 辻和明牧場の看板
    辻和明牧場の看板

 「グランダム・ジャパン2013」3歳シーズンの対象レースを2勝(若草賞、東海クイーンC)し、ポイント争いでも上位につけていたウォータープライドが、果敢に「東海ダービー」へ挑戦。並み居る地元牡馬勢を相手に1番人気の支持を受け、その期待に応えてダービー馬の勲章を勝ち得た。

 ウォータープライドの生産者は、新冠町の辻和明さん。近年の代表生産馬には、2007年のサマーチャンピオン(Jpn3)を制するなど、全国の競馬場を飛び回って大活躍したキングスゾーンがいる。また2007年、日本ダービー(G1)出走を目指す関西の精鋭が集まった京都新聞杯(Jpn2)で、武豊騎手を背に1番人気の支持を受けたフェザーケープも同牧場の生産馬だ。

 「道中はいつでも抜け出せる位置につけていたので、安心して見ていられました。父はスピード色の強いマイネルラヴですが、母系にはオークス(G1)でも3着に入ったキョウワホウセキ、そして三冠馬シンボリルドルフの血が流れているので、中距離戦でも大丈夫だと思っていました。最後は詰め寄られましたけど、よく頑張ってくれましたね」と、生産者の辻和明さんは顔を綻ばせる。辻さんは今年で75歳。大ベテランの生産者が発するひと言ひと言は、その歴史と重みを感じさせる。

 ウォータープライドは、2歳時の「未来優駿シリーズ」ゴールドウィング賞に優勝。3歳になってからは「グランダム・ジャパンシリーズ」で大活躍。そして今回の「ダービーウイーク」優勝と、地方競馬が推し進めるシリーズ競走を次々と沸かしてきたことで、各メディアで取り上げられる機会が格段に増えた。その影響もあって、辻さんのもとへも、お祝いの電話が頻繁に寄せられるようになった。「近所の牧場の方だけではなく、遠方にいる身内や馬関係の方からも“勝ったね”とお祝いの電話をいただき、びっくりしているところです」と、辻さんもその反響の大きさに驚いている。自宅に飾られたウォータープライドの口取り写真を眺めながら、「厩務員さんが女性なんですね。この方にも感謝したいです」と、愛馬をダービー馬に育てあげてくれたスタッフへ、改めて感謝の意を表した。

 実はウォータープライドが生まれた2010年、辻さんの牧場は危機に立たされていた。辻さんが脳梗塞にかかって入院し、一時は車イス生活を覚悟しなければならない状況にあったのだ。その間、奥様の啓子さんや近隣の牧場の皆さんが必死に牧場を支えてくれたそうだ。「倒れた時は、牧場をやめなければならないと思いました。入院してすぐ、同じ地域にある大作ステーブルの皆さんが手伝いに来てくださって、本当に助かりました。その後も、多くの方に手厚くお世話していただいてます。今回のダービー優勝は、皆さんの愛情のおかげだと思っています」と、深く頭を下げるように話す辻さん。今は辻さんも歩けるまでに回復しているが、それも手を差し伸べてくれた皆さんのおかげだと重ねて感謝する。

 ウォータープライドの幼少期について聞くと、「姿形のきれいな馬でしたが、少し細くて…。飼い葉はよく食べていたのですがね。キングスゾーンはものすごく気性の激しい馬でしたが、この馬はそういう面はなかったです」と振り返る。1歳時にサマーセールへ上場したが、買い手がつかずに主取り。その後、コンサイナーをしていた大作ステーブルに、ウォータープライドの未来を託した。「大作ステーブルさんの育成のおかげで、心身ともにたくましくなったと思います。携わってくれた方に恵まれました」と華奢だった愛馬を思い出し、その成長した姿に目を細める。

 辻さんの牧場には現在、ウォータープライドの母キョウワセイランがただ1頭、繁殖牝馬として残っている。「昔からシンボリルドルフの凄さに惚れ込んでいて、どうしてもその血統を受け継ぐ繁殖牝馬が欲しかったんです。何とかお金を工面して、キョウワセイランを購入しました。牧場にとっては大きな買い物でした。病気のために牧場規模を縮小せざるを得なくなっても、キョウワセイランだけは残しました。その仔であるウォータープライドが結果を出してくれて、本当に嬉しいです」と、母キョウワセイランに対する強い思い入れを語ってくれた。その母にオークス(G1)3着馬のキョウワホウセキ、1歳下の半弟には日本ダービー(G1)4着馬のキョウワスプレンダと、クラシックで活躍した馬たちに囲まれたファミリー出身のキョウワセイランは、今年、ウォータープライドの半弟に当たる牡馬(父パーソナルラッシュ)を出産した。1歳には同じく父パーソナルラッシュの牝馬がいて、今夏のサマーセールへ上場する予定だそうだ。姉の活躍を受けて、妹がどんな評価を受けるかにも注目される。

 「“無事是名馬”という格言がありますが、これからもケガなく競走生活を送ってほしいです。そしてキングスゾーンのように、中央馬にも太刀打ちできる馬になってくれたら最高ですね」と、ウォータープライドの今後に大きな期待を懸ける辻さん。着実に階段を駆け上がり、ダービー馬にまで上り詰めた牝馬の身体には、携わった多くの人の愛情が詰まっている。その愛情に応えるべく、ダービー馬の“誇り(プライド)”を胸に、さらに大きな舞台へと羽ばたいていってくれることだろう。