2023秋 北海道馬産地見学ガイドツアー 現地取材レポート

馬産地見学ガイドツアーレポート[ツアー2日目]

2日目は新冠・門別・胆振地区の牧場を訪問。

2023年9月8日

ビッグレッドファーム


ゴールドシップと記念写真2班
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馬産地の朝は早く、出発は午前7時30分。目指すは「マイネル」の冠で知られる日本有数の総合牧場ビッグレッドファームです。ここでは、スタリオン部門を見学させてもらいました。

ホテルから新ひだか町静内の町中を通り過ぎ、北海道市場、そして競走馬のふるさと案内所を左手に見ながらバスを目的地まで走らせます。千代田牧場、そして日本軽種馬協会静内種馬場の前を通り、新冠町へと抜けると目的地のビッグレッドファームが見えてきますが、そんな私たちを出迎えてくれたのはすでに用意されていたベンバトルでした。ここではビッグレッドファーム明和の長田基洋場長がマイクをとって馬を紹介してくれました。

ベンバトルの通算成績は25戦11勝2着4回3着3回。ドバイターフ(G1)ほかオーストラリアとドイツのG1競走を勝つなど世界をまたにかけて活躍しました。日本では22年から供用を開始し、この春はタイトルホルダーの母メーヴェが、ベンバトル産駒の牝馬を出産したことが話題になりました。続いて登場したのがウインブライト。現役時代は香港の国際競走に3度挑戦し2勝2着1回し、父ステイゴールドとともに海外G1制覇を成し遂げた活躍馬です。種牡馬として3年目シーズンを迎えた今年の種付頭数は84頭。安定した人気を誇っています。

個体展示の最後はゴールドシップ。ご案内した「しおり」では厩舎見学の予定でしたが、サプライズ登場。14歳となり、すっかりと白さを増した馬体は神秘的でもあり、またこの日は何度も立ち上がって元気さをアピールするなど、かつてのやんちゃぶりも披露するなど参加者の方々を喜ばせてくれました。また、サプライズ登場だけではなく参加者、わたしたちスタッフとの記念撮影にも応じてくれました。

その後は厩舎内でダノンバラードやジョーカプチーノなどを見学させてもらいましたが、その中でも人気はコスモバルク。ホッカイドウ競馬に所属しながらJRAの重賞競走に多く挑戦し続け4つの重賞競走に勝ったほかジャパンカップ(G1)2着、皐月賞(G1)2着。シンガポールで行われた国際G1競走の「シンガポール・エアラインズ・インターナショナルカップ(G1)」にも優勝。地方競馬所属馬として、初めて海外G1競走に勝った名馬です。この馬は種牡馬登録をされていないため、やや離れた厩舎にいましたが、それでもホッカウドウ競馬、地方競馬を代表する名馬をひと目見ようと多くの方が足を運び、22歳となった同馬と対面を果たしています。

下河辺牧場


屋内坂路までご案内頂いた
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ビッグレッドファームを出発したバスは最終目的地である新千歳空港方面へと向かいながら見学を続けます。次の目的地は「馬産地見学ツアー」ではすっかりお馴染みとなった下河辺牧場です。

1933年(昭和8年)創業の同牧場は生産、中期育成、調教、休養などを一手に引き受ける総合牧場です。下河辺隆行代表取締役が最初に紹介してくれたのは2013年の桜花賞馬で、昨年の最優秀2歳牡馬ドルチェモアの母でもあるアユサンと、そのドルチェモアの全弟にあたる当歳(父ルーラーシップ)。そしてジャパンダートダービー(Jpn1)優勝、そして東京大賞典(G1)2着ノットゥルノの母シェイクズセレナーデと、その当歳馬(牡、父サトノダイヤモンド)を見学させていただいたあと、場所を育成部門に移して中期育成中のロードカナロア産駒「スウィーティーガール2021」を紹介いただきました。数分前に見た「かわいい」という表現以外に言葉が見つからない当歳から、わずか1年間で競走馬としての雰囲気を醸し出すまでに大きく成長するサラブレッドの姿に目を丸くする人も。そのあとは、同牧場内にあるウォーキングマシンやゲートなどを見学させてもらい、全長1000mの屋内ウッドチップ坂路コースへ。ここでは実際にコースの中に入らせてもらって、ウッドチップの感触を実体験させてもらいました。馬が生まれてから、牧場を旅立つまでをぎゅっと詰め込んだ約50分。本当にありがとうございました。

余談ですが、訪れた翌々日に中山競馬場で行われた京成杯オータムH(G3)は下河辺牧場生産のソウルラッシュが鮮やかに突き抜けました。おめでとうございます!

ブリーダーズ・スタリオン・ステーション


コパノリッキーと記念写真1班
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日高地区最後の訪問場所は、下河辺牧場の代表取締役社長が代表を兼務するブリーダーズ・スタリオン・ステーションです。1990年創業の大型スタリオンステーションで、現在は12haの土地を使い、10頭の収容が可能なメイン厩舎ほか予備厩舎もフル稼働させて19頭の種牡馬を繋養しています。

当初は4頭を個体展示したのちに厩舎見学とご案内させていただきましたが、スタリオン側の粋な計らいで倍増となる8頭の個体展示となりました。バスを降りると遠藤幹常務取締役にお出迎えいただき、常務自らマイクをとって豪華スタリオンラインナップをご紹介いただきました。最初に登場したのはリオンディーズ。すでに大種牡馬の風格を漂わせる同馬ですが、それもそのはずでエピファネイアの半弟にしてサートゥルナーリアの半兄。自身も中央、地方で重賞勝ち馬を送り出している成功種牡馬です。堂々した歩様を披露いただきました。続いて、今年から初年度産駒を送り出しているアルアイン。現役時代は皐月賞(G1)、そして大阪杯(G1)に勝ち、全弟シャフリヤールはダービー馬にしてドバイシーマクラシック(G1)優勝馬。そして母は米国チャンピオンスプリンター。凛とした佇まいには気品があふれていました。そして、ハーツクライ産駒のジャパンカップ(G1)優勝馬シュヴァルグラン、香港スプリント(G1)父仔制覇のダノンスマッシュと続き、ディープインパクト産駒の最強ステイヤーと評価されるフィエールマン。遠藤常務からは「長距離馬のイメージが強いかもしれませんが、天皇賞(秋)(G1)で勝ったアーモンドアイを上回る末脚で2着に追い込んだように中距離スピード決着にも強かった」と補足説明がありました。そしてワールドチャンピオンにしてG1サイアーのジャスタウェイが紹介されたあとは、個性派キセキ。種牡馬生活2年目となった今年は80頭を超える繁殖牝馬を集めたと報告がありました。個体展示の最後はダートグレード競走の申し子ともいうべきコパノリッキー。その現役時代はフェブラリーS(G1)連覇を含め、G1&Jpn1競走11勝は、日本競馬史上最多となる金字塔です。そうした実績から多くの繁殖牝馬を集め、産駒をデビューさせた2021年にはNAR新種牡馬チャンピオンとなるなど生産地の期待に応えていることなどが紹介されました。

個体展示が終了したあとは4組に分かれてコパノリッキーと記念撮影。さすが口取り慣れした馬だけあってスムーズに写真撮影が行われ、バス出発までの時間は厩舎内にいる馬たちを自由見学。紹介しきれなかったブラックタイドやラブリーデイ、ストロングリターンなどとの再会を楽しんでいただきました。遠藤常務、坂本場長ほかスタッフのみなさん、本当にありがとうございました。

ノーザンホースパーク


ノーザンホースパークで昼食
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ほぼ予定通りにブリーダーズ・スタリオン・ステーションを出発したバスはトイレ休憩を兼ねたコンビニエンスストアに寄りながら、日高管内を後にします。向かうのは、数多くの引退名馬たちが余生を過ごし、またセレクトセールの会場にもなっているノーザンホースパークです。ここは1989年開場。たくさんの馬たちと触れ合い、そして学べる公園として競馬ファンのみならず北海道を代表する人気スポットです。

今回、私たちが用意した滞在時間は昼食時間も含め100分と、今回のツアーでは最も長い時間でしたが、それでも参加者の方々にとっては短かったようでバーベキューレストラン「バックヤードグリル」でのランチタイムを惜しむように、それぞれが思い思いの場所へと向かって飛び出していきました。人気の「ハッピーポニーショー」を楽しむ人、あるいは貴重なレアグッズが並ぶ「スーベニアショップ」で買い物を楽しむ人、見ごろを迎えているガーデンなどで北海道の大自然と楽しむひと、新名所「ディープインパクトゲート」へと向かう人。はたまた乗馬エリアで、かつての名馬たちとの再会を楽しむ人などなど。

ここではブラストワンピースやレインボーライン、フォゲッタブルにラストインパクト、ヴァーミリアンやアドマイヤジュピタなどかつてターフを沸かせた馬たちが乗用馬として過ごしていますし、昨年まで種牡馬として活躍していたキンシャサノキセキも新たに仲間入り。しかし、そんな名馬たちを押しのけるように、もっとも多くの方がひとめでも見ようと集まったのは32歳となったウインドインハーヘア。いわずと知れたディープインパクト、そしてブラックタイドの母馬です。今回、ご紹介させていただいた馬の中ではもちろん最高齢。もちろん、すでに繁殖牝馬としては供用されておらず、現在は静かに余生を過ごしているところですが、このたった1頭の繁殖牝馬によって日本の競馬が大きく変わったと言っても過言ではありません。その存在感は圧倒的でした。

そしてバスは見学ツアーの最終目的地「社台スタリオンステーション」へと向かいます。

社台スタリオンステーション


コントレイル
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1泊2日という限られた時間ではありました数えきれないほどの名馬、名種牡馬と出会い、そして牧場施設などを見学した「馬産地ツアー」の掉尾を飾るのは社台スタリオンステーション。1965年に創立され、以降ガーサント、ノーザンテースト、リアルシャダイ、トニービン、サンデーサイレンス、アグネスタキオン、マンハッタンカフェ、キングカメハメハ、ディープインパクトなど数えきれないほどのチャンピオンサイアーを送り出してきた日本を代表するスタリオンステーションです。

ここでは、事前に参加者の方々からリクエストをいただいた馬を中心に17頭を三輪圭祐さんから紹介いただきました。

最初に登場したのは、2世代目産駒をデビューさせたばかりのサトノダイヤモンドでした。現役時代は菊花賞(G1)、そして有馬記念(G1)にも勝利して2016年最優秀3歳牡馬にも選出されています。セレクトセール取引時から「サラブレッドの見本」とまで評されたバランスの良い馬体は種牡馬生活5シーズン目を終えても健在。初年度産駒から重賞勝ち馬を送り出したあたりにも貫録を感じさせます。

続いて登場してきたのは一昨年の年度代表馬で今年からスタリオンステーションに仲間入りを果たしたエフフォーリア。現役競走馬の頂点にもなった馬を「志なかば」と表現するのは可笑しいかもしれませんが、今年2月の京都記念(G2)を最後に引退。シーズン途中でのスタッドインとなりましたが、それでも198頭の繁殖牝馬を配合したのは期待の表れ以外、何物でもありません。

そして三冠馬にして、産駒が米国のBCディスタフ(G1)、ドバイワールドカップ(G1)を制したオルフェーヴル。15歳となった今もギラギラした雰囲気はそのままで、栗毛の馬体が秋の陽射しを受けて美しく輝きます。そんな感傷に浸る間もなく、初年度産駒のデルマソトガケがUAEダービー(G2)を勝ったマインドユアビスケッツ、初年度産駒が大ブレイク中のスワーヴリチャード、そして現役最強馬イクイノックスを送り出したキタサンブラック、2018年最優秀ダートホースに選出されたルヴァンスレーヴと続きます。

三輪さんのマイクパフォーマンスは種牡馬展示会などでもお馴染みですが、よりファン目線に近い部分でわかりやすく、そして普段は気が付かないような細かい種牡馬の特徴をフォローしてくれます。

真っ黒な馬体と派手な大流星を持つイスラボニータは最優秀3歳牡馬。サンデーサイレンス初年度産駒フジキセキのラストクロップから現れた名中距離ランナーでした。豪華スタリオンラインナップはまだまだ続きます。

名実ともにディープインパクトの後継種牡馬を代表するキズナに続いて登場してきたのは米国年度代表馬ブリックスアンドモルタル。さらにドバイターフ(G1)の覇者リアルスティールと国際的な名馬が続き、国内最高種付料を誇るエピファネイアは圧倒的な存在感とともに登場してきました。

初年度産駒からダービー馬を送り出したサトノクラウンのあとは、時代のダート界を背負って立つ存在クリソベリル。現役時代から超が付くような大型馬でありましたが、その馬体はさらに迫力を増したようにも見えます。

さらに初年度産駒を送り出したばかりのレイデオロは生産地での評価、人気が高い1頭です。産駒がセレクトセールなどで高額取引されているサートゥルナーリアはエピファネイアと兄弟同時展示となり、改めてその母シーザリオの偉大さを実感させられます。そして、ツアーの最後を締めくくってくれたのはディープインパクト直仔の不敗の三冠にして次世代のチャンピオンサイアーと呼び声高いコントレイル。馬産地の期待を一身に担う青鹿毛の馬体が登場するや参加者のボルテージも一気に上がったようです。残り少なくなった電池、容量を気にする必要もなく惜しみなくシャッターを切り続けている姿が印象的ですが、そうしたワンショットよりも心と記憶の中に刻まれた名馬たちの共演は何物にも代えがたいものになったのではないかと思います。

最後に

あっという間の60分。バスは社台スタリオンステーションをあとに新千歳空港へと向かいます。4年ぶりの開催となった馬産地見学ガイドツアーは、参加いただいたみなさまのご協力によって、事故や病気、トラブルなどなく終えることができました。改めて感謝申し上げます。今年は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から一泊二日という凝縮した日程だったために浦河方面や洞爺湖方面は断念せざるを得ませんでしたが、来年以降はみなさま方からいただいたアンケートなどを参考にしながら、日程なども含めてより良いツアーにしていきたいと考えていますので、またのご参加をお待ち申し上げております。

また、最後になりましたが。快くご協力いただきましたそれぞれの牧場、スタリオンステーションの方々本当にありがとうございました。この場を借りて、感謝申し上げます。本当に、ありがとうございました。