馬産地コラム

サチノスイーティーを訪ねて~競優牧場

  • 2014年01月21日
  • サチノスイーティー
    サチノスイーティー
  • かん性の強いところがある
    かん性の強いところがある
  • 今年はヨハネスブルグを交配する
    今年はヨハネスブルグを交配する
  • 父ダノンシャティの1歳牝馬
    父ダノンシャティの1歳牝馬

 電光石火のスプリンターが争うJRA唯一の芝5ハロン重賞、アイビスサマーダッシュ(G3)の覇者、サチノスイーティー(信育成牧場生産)を訪ねた。2010年に現役を引退後、新冠町の競優牧場で繁殖生活を送っている。

 競優牧場は新冠町の牧場が集積する“サラブレッド銀座”通りに位置し、古くはタケシバオー、最近では新馬戦を圧勝したオーシャンヒーロー、3歳牡馬クラシックで有力視されている一頭マイネルフロストを生産している。

 繁殖牝馬の放牧地へ向かうと、同牧場の榊明彦社長がサチノスイーティーを指さす。しんとした空気の中、仲間の牝馬と一緒に草を食んでいる。「変わらず元気に過ごしています。もともと小柄なタイプですが、無事に2頭生んで、体つきはお母さんらしくなってきました。出産も子育ても問題なく、よく仔馬を可愛がります。一方で、かん性の強い面もあり、直腸検査の時などは気を付けています。」と、紹介する。繁殖スタッフの方が「サチノ」と呼ぶと、サッと耳を立ててポーズをとった。今年11歳となる馬体は健康そのもので、厳しい冬の寒さも平気な顔をしている。

 現役時代は29戦6勝。2歳秋のデビューから持ち前のスピードを武器に活躍し、3歳時には500万特別から3連勝でアイビスサマーダッシュ(G3)を奪取。後続に3馬身差をつける鮮やかな重賞制覇だった。その後も短距離戦線で上位争いを重ね、オーシャンS(Jpn3)、かきつばた記念(Jpn3)では2着に好走し、強豪牡馬とも好勝負を繰り広げた。その快足ぶりは父カリスタグローリらしくもあり、ダートでも高いパフォーマンスを示したあたりは、母の父アフリートの遺伝を感じさせた。

 繁殖入り後、初仔はリンカーンの牡馬、2番仔はダノンシャンティの牝馬を生んでいる。今年の出産はお休みで、来年に向けてはヨハネスブルグの交配が決定した。2013年の新種牡馬リーディングを味方に、母仔重賞制覇を狙う。「スピードが身上の馬なので、最近はその長所を伸ばす配合を意識しています。ヨハネスブルグは世界各国での実績はもちろん、昨年デビューの日本産馬の勝率は群を抜いていますからね。サチノスイーティーとの血統構成からも楽しみにしています。」と、榊社長は声を弾ませる。

 明け1歳となる2番仔は同牧場で元気に過ごしており、額には母と同じように星がついている。「1歳の牝馬は父母の良いところが受け継がれています。素軽い動きを見せているので、芝向きでしょう。昼夜放牧をして頑丈に育てていきたいですね。」と、今年の1歳セール上場か庭先取引を予定している。

 配合を考える時は、手書きで血統表を作るという榊社長。手書きの方が頭に入るから、という理由で、パソコンのある応接間に紙が重なっている。サチノスイーティーの血統表には、オークス、有馬記念を制したスターロッチ、桜花賞馬ブロケードといった名牝の名が書き込まれている。ブラックタイプの濃い輸入牝馬が珍しくない近年は、母系の質も深く問われる時代。サチノスイーティーは牧場にとって頼もしい存在だ。榊社長は、「競走成績、血統ともに優秀ですからね。繁殖牝馬としても花を咲かせたいです。新馬を勝つのも大変、重賞を勝つのはもっと大変なことですが、それを叶えてくれるだけの可能性を秘めた馬だと思います。」と、期待をかけている。

 北海道の長い冬が過ぎ、もう2か月もすれば交配時期に近づく。数年後、再びサチノスイーティーを思い出すファンが続出してくれるように、牧場では静かに準備が進められている。その未来には母と同じように、あっという間に先頭に立つ仔の姿が思い浮かんでいる。