キングズベストを訪ねて~ダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックス
日高町のダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックスで繋養されているキングズベスト(アメリカ産)を訪ねた。昨年11月に日本供用が発表されてから早一年。薄くなった今年のカレンダーをめくれば、本邦初年度産駒誕生の知らせが近づく。
「忙しいシーズンを終えて、リラックスした毎日を過ごしています。日本の環境にも順応し、到着時から一層馬体にハリが出てきましたね。16歳という年齢から、心身とも種牡馬として充実期を迎えていると思います。」と、近況を語ってくれたのは、ダーレー・ジャパン(株)のノミネーションマネージャーを務める加治屋正太郎さん。午前中は放牧時間とし、午後は厩舎で過ごしている。夏~秋にかけては、一般見学公開の時間を作り、馬房の窓越しからファンと会話を交わしている。
秋のとある日、放牧前に写真を撮らせていただくと、シャッター音に反応してサッと耳を立てた。遠くを見つめる視線、白い息、引き手スタッフとのコンタクトはスムーズだ。
「ハンサムで端正な顔立ち。見学の方はよく顔の写真を撮っていらっしゃいますね。一方で、勝ち気な性格をしていて、ハートの強い馬でもあります。」と、加治屋さん。紺色の厩舎カラーに、鹿毛の馬体のラインがシャープに映る。首をグッと下げて展示場を歩く姿は力強く、それでいてステップは軽やか。ワールドワイドに種牡馬生活を送ってきた自信を表すように、その雰囲気には余裕がある。
血統は超一流。名種牡馬キングマンボの直仔で、凱旋門賞馬アーバンシーの半弟にあたる。ガリレオ、シーザスターズとは同じファミリーとなり、ブラックタイプには世界最高クラスの馬名がズラリ。現役時代は“アイアンホース”の異名をとるジャイアンツコーズウェイを破ってイギリス2000ギニー(G1)を制し、6戦3勝の成績で引退した。アイルランドで種牡馬入り後、シャトル種牡馬としてオーストラリア、アルゼンチン、フランスで供用され、多数の重賞馬を送り出した。産駒のタイプは様々で、短距離G1を制したキングズアポストルがいれば、長距離G1を制したロイヤルダイヤモンドも出現。2010年にはワークフォースとエイシンフラッシュがイギリス、日本でダービー馬となり、クラシック・ディスタンスでももちろん強い。
血統、馬体、競走成績、種牡馬実績もさることながら、リーズナブルな種付料に驚嘆の声を発した生産者も少なくないだろう。そして、前評判に違わぬ結果がもたらされた。
「体調面に十分配慮しながら、今年は174頭と交配しました。種付けに関してはキャリア豊富な馬ですし、よく理解していて上手です。」と、加治屋さんはその仕事ぶりを誉める。また、繁殖牝馬の質の高さも強調。キングマンボ系と相性の良いサドラーズウェルズ肌の繁殖牝馬を交配するケースも目立っていたという。
来季はハードスパン、モンテロッソといった新しい種牡馬仲間とともに、ダーレー・ブランドの威力を発揮していく。
「しっかりと体調管理に努め、今後も多くの繁殖牝馬を集めていきたいです。先々は日本のサイアーラインに影響力を持つレベルの馬にしたいですね。」と、加治屋さんは未来を描く。日本における成功への足がかりは確か。目指している高い到達点も、これから現実味を帯びていくだろう。盤石の道を歩いていけば、息子が、娘が、たくさんの勝利をもたらしてくれるはずだ。多くの日本のホースマンが、彼の遺伝子に希望を膨らませている。新しい流れを作る一頭へ_その準備は着々と進んでいる。