スペシャルウィークを訪ねて~ブリーダーズスタリオンステーション
もうまもなく21世紀の扉が開こうという1999年。ニッポンの競馬も新しい時代を迎えようとしていた。強い外国産馬が国内レースを席巻し、エルコンドルパサーは長期欧州遠征を敢行。わが国の競馬を象徴する天皇賞もそういった時代の波に抗うことはできず、この年を最後に内国産馬限定競走としての歴史にピリオドが打たれることになっていた。
そのレースをレコードタイムで制したのがスペシャルウィークだ。母系を溯れば1907年に英国から輸入されたフロリースカップにさかのぼる。以降、90年という時間の中で育まれた血統というのも、どこか示唆的だったのかもしれない。
あの秋から12年目。スペシャルウィークは住み慣れた社台スタリオンステーションから日高町のブリーダーズスタリオンステーションへと移動した。
「まさか、スペシャルウィークが移動してくるとは思わなかったです」と同ステーションのスタッフ、事務局が声を揃えたが、その顔は驚きというよりも嬉しさに満ちていた。移動したのは既報のとおりに23日午前。あと数時間もすれば、同SSで種付けを行なったステイゴールド産駒のオルフェーヴルが菊花賞(G1)で史上7頭目の三冠に挑むという時間で、スペシャルウィークの愛娘ブエナビスタが秋のG1シリーズのスタートを切る1週間前のことだった。
「急に決まった話みたいですが、びっくりのひと言です。(一緒に移動してきたダンスインザダークを含め)これだけの馬を扱える責任の重さを痛感しながら、とにかく一生懸命にやるしかないです」と言いながらも坂本教文主任は「天皇賞(秋)(G1)は応援する馬がいっぱいで嬉しいです」と相好を崩した。デュランダル産駒のカリバーンは除外されてしまったが、
同スタリオンで種牡馬生活を送るグラスワンダー産駒のアーネストリーに加え、昨年の覇者ブエナビスタと距離得意のナリタクリスタル(父スペシャルウィーク)、さらにはダンスインザダーク産駒のダノンヨーヨー、ダークシャドウが応援対象に加わった。人気上位が予想される馬たちがズラリと名を連ねている。
意気あがる関係者をよそに、当のスペシャルウィークはというと、与えられた放牧地を自由に謳歌している。ゆったりと、大股で歩く姿は社台スタリオンステーション時代と何ら変わりはない。環境の変化にも慣れ、時折、隣同士になったデュランダルとなにやらやりあっている。移動の知らせを見聞きして、さっそく多くのファンがスペシャルウィークを訪ねてきている。
「今までは見学できない馬だったせいもあるんでしょうが、まるでオンシーズンのようにファンの方が足を運んでくれます。やっぱりファンの多い馬なんだということを感じます。万全の体調で来シーズンを迎えられるように管理に努めます」と意気込みを語ってくれた。