馬産地コラム

ディープインパクトを訪ねて~社台スタリオンステーション

  • 2011年01月21日
  • ディープインパクト~1
    ディープインパクト~1
  • ディープインパクト~2
    ディープインパクト~2
  • ディープインパクト~3
    ディープインパクト~3

 あと十数年が過ぎて、いつの日か後輩競馬ファンにこう言いたい。「ディープインパクトの現役時代を知っている」と。ディープインパクトという馬と時代を共有できたこと。それはひとりの競馬ファンとして、何よりの財産だ。

 「素晴らしいという言葉以外ないですね」と社台スタリオンステーションの徳武英介さんが本馬を称えた。血統、競走成績。そして種牡馬成績。完璧という言葉はサラブレッドには似つかないものだが、ディープインパクトのそれは完璧だ。

 14戦12勝。落馬寸前の不利をこうむった皐月賞(G1)。菊花賞(G1)の単勝100円戻しはある意味で事件だった。ノーザンファームの吉田勝己さんが「一番嬉しい」と言ったジャパンC(G1)。引退レースの有馬記念(G1)はディープインパクトのためだけのレースになった。

 引退後は日本競馬史上最高の51億円でシンジケートが組まれ、産駒がデビューするまでの話題を独占したかと思えば、デビュー後はさらに話題を振りまいた。新種牡馬としての勝馬数、勝鞍数、そして収得賞金。すべての記録を塗り替えた。

 そんなディープインパクトも社台スタリオンステーションでは一般見学が可能な放牧地に放されている1頭のサラブレッドだ。“翔ぶ”と例えられた大きなストライドで放牧地を闊歩している。現役時代の面影を残す体型を維持しており、専門の警備員が常に付き添う以外は、ほかの馬と変わりない。

 「物事にはあまり動じない馬ですね。ほかの馬は走り回っても、放牧地ではマイペースですね。ただ、歩くのは好きみたいで、いつも放牧地の中をウロウロしてますよ」という。どこにあれだけのパワーとスピードがあるのかはよくわからないが、あとしばらくの時間はこの鹿毛馬に夢を託してみよう。

 古きよき昭和の時代。ハイセイコー、テンポイント、オグリキャップ。時代は天才ランナーよりも、悲運なファミリーから生まれたひたむきな馬を求めていた。しかし、世界を知ってしまった平成の時代は、国外の舞台で、世界一を争える馬を求めている。その夢こそが、ディープインパクト自身がやり残したことであり、次世代に託した唯一の夢であり、希望なのだ。