重賞ウィナーレポート

2017年10月15日 秋華賞 G1

2017年10月15日 京都競馬場 雨 重 芝 2000m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ディアドラ

プロフィール

生年月日
2014年04月04日 03歳
性別/毛色
牝/鹿毛
戦績
国内:14戦5勝
総収得賞金
295,797,000円
ハービンジャー(GB)
母 (母父)
ライツェント  by  スペシャルウィーク
馬主
森田 藤治
生産者
ノーザンファーム (安平)
調教師
橋田 満
騎手
C.ルメール

 ディアドラが生産されたノーザンファームで働くスタッフは、生産、イヤリング、育成と、自分たちが手がけてきた競走馬がG1レースに出走した時には、牧場の計らいで競馬場まで応援に行かせてもらうことができる。

 アネモネSで2着となって桜花賞(G1)へと出走、その後、矢車賞で賞金を加算してオークス(G1)にも出走を果たしたディアドラであるが、育成調教を手がけてきた佐藤洋輔厩舎長は、その2つのレースの応援には行かなかった。

 「桜花賞(G1)の時には応援に行くのはここでは無い、と思っていましたし、オークス(G1)は出走できるかどうか確定せず、悩んでいた時に申し込みが締め切りとなってしまいました」と佐藤厩舎長は笑みを浮かべる。そう考えると、牝馬三冠レースの最後となった秋華賞(G1)は、これまでの2度に渡ってパスしてきた権利を試行するのに、申し分ないレースと言えたのかもしれない。前走の紫苑S(G3)では、ディアドラだけでなく、育成厩舎としても初めてとなる重賞制覇。そのレース内容も高く評価され、桜花賞(G1)では14番人気、オークス(G1)でも9番人気でしか無かったその評価は、この秋華賞(G1)では3番人気となっていた。

 佐藤厩舎長が見つめる中、秋華賞(G1)のパドックにディアドラが姿を見せる。電光掲示板に映し出された馬体重は、紫苑S(G3)から12㎏増となる490㎏。これはディアドラにとって、デビュー以来、自己最高となる馬体重でもあった。

 「馬体を減らしているよりはいいと思っていましたが、それでもパドックでその姿を見る前は、どんな馬体になっているのだろうという気持ちはありました。それでも馬体重の印象ほど見た目は太くなかったですし、むしろ牝馬としてはグラマラスな馬体になっていたと思いました」

 ディアドラは紫苑S(G3)からこの秋華賞(G1)の間に、ただ、馬体を大きくしていただけでは無かった。追い切りの時計でも好時計をマークしていたように、意欲的な調教を重ねながら、しかも2歳7月からコンスタントにレースを使われながらでも、よりパワーアップを遂げていた。

 「パドックでも前向きさが見受けられましたし、むしろいいテンションを保ちながらこの舞台に臨んできたように思えました」

 心身共にしっかりと出来上がっていると、馬の状態には安心した佐藤厩舎長ではあったが、少しだけ気がかりなことがあった。それはレース当日から降りしきっていた雨。いつしか馬場は悪化していき、メインレースを迎える頃には重馬場発表となっていた。

 「それでも馬場の良くなかった桜花賞(G1)を始め、少々渋ったレースでも好走を見せていましたし、経験を重ねていくごとに競馬も上手になっている印象もあったので、むしろ他の馬よりは有利に運べるのではとの気持ちにもなりました」

 ゲートが開くとまず飛び出したのは、前走のローズS(G2)でもあわやの逃げ切りを図ったカワキタエンカ。7枠14番からの発走となったディアドラのスタートは決して良く無かったものの、それでも鞍上のクリストフ・ルメール騎手に導かれる形で、インコースに進路を構える。カワキタエンカが雨を切り裂くかのように軽快に飛ばしていく中、計時された1000m通過の時計は59秒1。この馬場ではかなり速い時計でもあったが、その時、佐藤厩舎長は前を行く馬たちも、電光掲示板に表示された時計にも目をやらず、ひたすらターフビジョンでディアドラの姿だけを追っていた。

 「全く他の馬は見ていませんでした。最後の直線の位置取りを見た時には駄目かと思いましたが、そこから行きたいところが全て開いていくように、一頭、また一頭と交わしていく姿を見たときには、ただただ絶叫していました」

 それはルメール騎手の好騎乗であり、何よりも最高の状態かつ、この馬場を全く苦にしない走りを見せたディアドラの真骨頂だったのだろう。先に抜け出したモズカッチャンを交わし、リスグラシューの追撃も振り切ってのゴール。勝ち時計は2分00秒2、上がり3ハロンの35秒7は出走メンバー中最速でもあった。

 ゴールの瞬間、同じように牧場からディアドラを応援しにきていたノーザンファームのスタッフと共に、佐藤厩舎長は口取り式が行われる馬場方面へと駆けだしていった。その時に改めて、牧場スタッフと共に勝ち取ったG1タイトルであると感じていたという。

 「育成厩舎のスタッフだけでなく、牝馬厩舎を束ねてくれた日下調教主任。ディアドラに関わってきた生産、イヤリングのスタッフだけでなく、橋田調教師や、厩舎スタッフの皆さん、そしてノーザンファームしがらきのスタッフと、みんなでディアドラという馬を作り上げてきたとの思いがこみ上げてきました。中でもノーザンファームしがらきには、早来時代から共に働いてきたスタッフもいますし、そのスタッフのいる厩舎もまた、ディアドラが管理馬では初めてのG1だったことも嬉しかったですね」

 ディアドラは次走にエリザベス女王杯(G1)を予定。古馬とはHTB賞以来のレース、しかも今回はG1となるが、今の勢いと成長力なら相手に不足は無さそうだ。

 「レースが終わってしばらくしてから、G1を勝つ凄さと大変さが頭をよぎりました。来年、そして再来年以降も、ディアドラのような馬を送り出さなければと言う責任感も生まれてきましたし、その一方でまたこの喜びや感動を、みんなと共に味わいたいとの思いもあります」

 エリザベス女王杯(G1)は個人的に応援に行こうとも考えています、とも話す佐藤厩舎長。育成馬による次のG1勝利は、その時にディアドラが叶えてくれるのかもしれない。