馬産地コラム

あの馬は今Vol.40~天皇賞・アグネスデジタル

  • 2008年11月05日
  • 今のアグネスデジタル~ビッグレッドファーム
    今のアグネスデジタル~ビッグレッドファーム
  • 同

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 2001年10月28日 
  天皇賞・秋  優勝馬 アグネスデジタル
             
 長い長い2強時代が続いていた。前年の宝塚記念から天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念。そして天皇賞・春、宝塚記念と、JRAで行われた芝2000m以上の古馬G1レースではすべてテイエムオペラオーとメイショウドトウの2頭がワン・ツーフィニッシュを決めていた。 そんな時代に、ファンが期待した新しいヒーローは3歳馬の外国産馬クロフネだった。春シーズンにNHKマイルCを快勝。秋、神戸新聞杯は負けてなお強しの内容で3着だった。外国からやってきた最強の刺客が“2強時代”に終止符を打ってくれると多くのファンは期待をしていた。
 
 そんな期待があっさりと裏切られた。当時、天皇賞に出走できる外国産馬の枠は2頭。当確のメイショウドトウ以外に残された枠はひとつだったのが、直前になってアグネスデジタルが名のりをあげ、収得賞金の不足によりクロフネは弾き出されてしまった。前年秋にマイルチャンピオンシップを制し、直前には地方競馬の交流重賞2連覇ているとはいえ、その後芝コースでは未勝利。クロフネの出走を期待した心無い声が陣営に届いたともいわれるが、アグネスデジタルは、第124回天皇賞が行われる東京競馬場のターフに、その栗毛の体をあらわした。単勝4番人気とはいえ、20倍のオッズがファンの期待度を示している。
 
 当日は、あいにくの雨。クロフネがいないメンバー構成も、空模様もテイエムオペラオーに味方しているかのように見えた。
 波乱を感じさせたのは、スタートで逃げるはずのサイレントハンターが大きく出遅れたことだ。代わりにメイショウドトウがハナにたつ。宝塚記念では積極的な先行策でテイエムオペラオーを封じ込めたことを思えば、自然な流れだった。2番手にテイエムオペラオー、3番手にステイゴールドという意外な展開になった。しかし、本来は好位から競馬をするメイショウドトウが刻むペースはゆったりだ。37秒9~50秒1~62秒2のペースで、有力馬は一団のまま折り合いに専念する。
 
 レースが動いたのは3コーナー過ぎ。トレジャーとジョウテンブレーヴが進出し、ペースアップ。引くに引けなくなったメイショウドトウは早めに脚を使わざるを得なくなり、長い直線に伸びを欠く。インにもぐりこんだステイゴールドは馬場の悪いところを通って伸び悩む中、テイエムオペラオーがメイショウドトウを捕らえた。残り200mを過ぎたあたりで、和田竜二騎手の右ムチに応えるようにグンっと伸びて後続を突き放す。天皇賞4連覇が見えた瞬間、大外から矢のように伸びてきたのがアグネスデジタルだった。この勝利をきっかけに、アグネスデジタルは香港Cに優勝。返す刀でフェブラリーSを制すると、ドバイワールドCに挑戦した。さすがにここは相手が強かったが、翌年の安田記念をレコード勝ちするなど、異能ぶりを発揮。通算32戦12勝の成績で2004年からビッグレッドファームで種牡馬となった。
 
 芝で、ダートで、国内外を問わずに活躍したオールラウンダーの血を求めるように初年度から人気沸騰。その人気は初年度産駒のドリームシグナル、ユビキタスが重賞競走に勝ったことでさらにヒートアップして、2008年度は159頭の繁殖牝馬に配合を行った。
 「産駒は父親譲りのオールマイティさを発揮してくれていますね。芝でも、ダートでも素晴らしい決め手を発揮した筋力を伝えてくれています。多くの人に配合してもらっているので、その期待に応えられてよかったです。あとはG1レースを狙えるような大物が出て欲しいですね。」とビッグレッドファームの岡田繁幸さんは期待を膨らませている。放牧地では元気を余しているかのように走り回り体調のよさをアピールする。念願のG1ウイナーは、芝かダートか。いずれにしても大きな可能性を秘めた1頭だ。

                  日高案内所取材班