馬産地コラム

コスモバルクを訪ねて~ビッグレッドファーム

  • 2014年07月14日
  • コスモバルク
    コスモバルク
  • 緑にあふれた放牧地で、悠々自適な功労馬生活を送っている
    緑にあふれた放牧地で、悠々自適な功労馬生活を送っている
  • 今も気性は若々しい
    今も気性は若々しい
  • 今年も門別競馬場で展示を行った
    今年も門別競馬場で展示を行った

 新冠町のビッグレッドファームで功労馬生活を送っているコスモバルクを訪ねた。

 コスモバルクは新ひだか町三石・加野牧場の生まれ。古くはオグリキャップ、ヒシミラクル、最近ではワンダーアキュート、ロードカナロアと、三石産の名馬はなかなか役者揃いだが、その中に入っても、バルクは全くヒケをとらない。その個の力には恐れ入る。

 「普段は昼夜放牧をして、外で自由に過ごしています。内臓のしっかりした馬で、体にハリがあり、気性は若々しいです。」と、近況を伝えてくれたのは、同牧場スタリオンスタッフの福田一昭さん。種牡馬と同じ厩舎・放牧地で過ごして、牧柵にはイラスト付きの紹介看板を置いている。相変わらず食欲旺盛で、放牧地では夢中で草を食む。ふと顔を上げたと思えば、遠くで坂路コースを駆ける育成馬をじっと眺めている。現役時代を思い出したかのように、少し興奮した様子でいななく。環境整備の重機の音が気になるらしく、他の馬は平然としているのに対し、バルクだけは強い好奇心を示すらしい。

 通算成績は48戦5勝。主な勝ち鞍はシンガポール航空国際カップ(G1)、セントライト記念(G2)、弥生賞(G2)、ラジオたんぱ杯2歳S(G3)、地方重賞の北海優駿、オーロカップなど。ともに走ったG1馬はキングカメハメハ、ゼンノロブロイ、ダイワメジャー、ディープインパクト、ハーツクライ…と挙げていけばキリがなく、それも豪華な面々だ。JRA史上に名を残すような強豪を相手に、地方から、外厩馬として矢を放ち続けたコスモバルクは、それはそれは勇敢な競走馬だった。

 スポットライトを浴びた日もあれば、苦杯をなめた日もあった。静かな牧場とは対照的に、叫びの入り混じった大観衆の舞台_あれは2004年5月30日。灼熱の府中で、究極の白黒をつけるために争う18頭が、栄えある日本ダービー(G1)に挑んだ。上位人気に推されたバルクは一旦先頭に躍り出たが、最後の直線でその希望は打ち砕かれた。凄まじい勝負根性でダイワメジャーと壮絶に競り合い続けたものの、勝ち馬からは1.2秒遅れをとった。現地にいた福田さんも、その時のことを脳裏に焼き付けている。

 「今も鮮明に覚えています。いよいよダービーを勝てると思って見ていましたからね。一生、忘れられないレースです。」

 今は穏やかな顔をしているバルクも、必死の形相を浮かべていた。48戦の競走生活で一番の修羅場だったかもしれない。この春にはダービー出走を目指していたプレイアンドリアルと、偶然隣り合わせで放牧していたこともあった。今年のレースで3着に入ったマイネルフロストは昨年、バルクがいた放牧地で調整期間を過ごしていた。年月が経過してなお、バルクの周りはダービーへの念が渦巻いている。

 「バルクの経験も生かし、何とかこの牧場からダービー馬を送り出したいと思っています。」と、福田さんは執念を燃やす。

 「コスモバルク」と、あるウェブサイトで検索すれば、約18万件ヒットする。その数字は昨年まで牧場にいた「ステイゴールド」には及ばないが、関心度合いは並の馬ではない。その功績を称えて創設されたホッカイドウ競馬重賞「コスモバルク記念」は今年で4回目を数え、今年も施行日に門別競馬場で展示・撮影イベントを実施した。大勢のファンが参加し、パドックには応援幕が垂れ下がった。ファンの温かな声を耳にしながら、今後もスターホースらしい生活は続いていくだろう。

 「引退して数年経ちましたが、バルク目当てに牧場に来られる方は多く、全国からニンジンやリンゴ、ファンレター、お守りが贈られてきます。ファンの方との対面は嬉しいようで、夏秋のツアーで大勢から視線を浴びると、いつもテンションが上がっています。輸送の平気な馬ですし、機会があればまた競馬場で披露したいですね。これからも健康を維持し、長生きして欲しいです。」