フサイチホウオーを訪ねて~ノーザンホースパーク
2007年のクラシックを沸かせたミリオンホース・フサイチホウオー(ノーザンファーム生産)を訪ねた。今年、種牡馬生活を引退し、苫小牧市の観光施設ノーザンホースパークで乗用馬となっている。
かつてダービー馬ダイナガリバーが過ごしていた厩舎の並びに、フサイチホウオーの馬房がある。基本的にはオールシーズン、見学可能だ。
「こちらに移動後も体調のリズムを崩すことなく、元気に過ごしています。去勢効果ですっかり落ち着いていますね。大人しいぐらいです。」と、近況を紹介してくれたのは、同園乗馬スタッフの太田和明さん。環境の変化にも慣れ、現場では「ホウオー」の名で親しまれている。
血統は父がダービー馬ジャングルポケット、母は阪神牝馬特別(G2)2着の実績が光るアドマイヤサンデー。当歳時、セレクトセールに上場され、1億500万円の値で関口房朗氏が落札した。当時の当歳セッションで、ミリオンにまで競り上がった9頭のうちの1頭だ。
現役時代は11戦4勝。メンバーの揃う東京開催のデビュー戦を快勝すると、返す刀で東京スポーツ杯2歳ステークス(G3)、ラジオNIKKEI杯2歳ステークス(G3)と連勝し、2歳の時点で後のグランプリホース・ドリームジャーニー、クラシックホース・ヴィクトリー、アサクサキングスを下した。年明け初戦の共同通信杯(Jpn3)まで連勝を伸ばして迎えた皐月賞(Jpn1)。弓矢から弾かれるように直線で猛然と追い上げたものの、僅かにヴィクトリー、サンツェッペリンに先着を許し、悔しい3着に敗れた。続く日本ダービー(Jpn1)では1番人気に推され、ファンの期待はむしろ最高潮に上がった。直線ではどれほど伸びるだろうか、そんな思いを抱いていたファンは、さぞかし多かったことだろう。結果は7着。自慢の豪脚は不発に終わり、「まさか」という場面が過ぎ去っていった。これもまた競馬、ダービーの頂は高かったということだろうか。秋以降はよもや3歳春までの走りを取り戻せず、4歳春に屈腱炎を発症し、引退となった。
全妹トールポピーの活躍も後押しし、引退後はアロースタッドで種牡馬入りとなった。交配頭数には恵まれなかったが、少ない産駒の中から9頭が勝ち上がり、出世頭のケンブリッジサンは東京スポーツ杯2歳ステークス(G3)で4着に健闘した。2歳世代には7頭、1歳世代には6頭が血統登録を済ませている。
次なる馬生は乗用馬。現在は厩舎仲間のインティライミと同じく、主にノーザンファームとノーザンホースパークの若手スタッフを乗せている。
「ノーザンホースパークの営業時間は厩舎内で披露しまして、その後はスタッフの騎乗練習馬として起用しています。時間はだいたい午後5時ぐらいからですね。まだ転身したばかりですし、じっくり乗り慣らしていきたいと思います。」と、太田さん。ノーザンファームゆかりの血統馬とあって、特別な思いで跨るスタッフもいるのではないだろうか。引き馬での足取りは力強く、表情には余裕がある。見栄えがする好馬体は、恐らく当歳時から変わらない。今日もまた、人材育成のために汗を流すフサイチホウオー。大観衆の声を知る耳に、フレッシュなホースマンの声が届いている。